2002年10月4日(金)「しんぶん赤旗」
会食が始まって間もなく、唐外相は、中国の外交政策、その根底にある考え方について、まとまった話をしはじめた。それは、通り一遍のものではなく、大いに傾聴に値するものだった。
私は、中国の外交政策を見るとき、最大のキーワードは、平和的な国際環境を求める強烈な願望だと思っている。
四年前の訪中の時、中国側は中国の発展の現段階を、次のように説明していた。
――中国の経済建設は、現在、社会主義の「初級段階」にある。この「初級段階」は、約百年続く予定で、その間、五十年ぐらいの時点では、経済の発展はだいたい世界の中進国の水準に追いつくことを、目標にしている。
――経済建設、社会建設を成功させるためには、平和的な国際環境がどうしても必要である。そういう国際環境を確保するために、あらゆる努力をつくすことに、中国外交の最大の任務がある。
「社会主義初級段階」、しかもその期間として百年を予定しているという話は、さまざまな苦難の経験をへた上でのそのリアリズムが、よく理解できた。
四十年前、社会主義のより高度な社会であるはずの「共産主義」に、この道を進めば短期間で到達できる――こう思いこんで毛沢東が発動した「大躍進」およびその中核となった「人民公社」運動が、中国社会に悲劇的な災厄をもたらしたこと、さらに、そのより異常な延長戦をなした「文化大革命」のもとで、言語に絶する災害が全土をおおったこと、こういう極限的な困難を経験したからこそ、前途を百年を単位としてはかるようなリアリズムを、国の方針としえたのだろう。
また、それだからこそ、この経済建設に全力を集中できるだけの平和的な国際環境を確保したい、という願望の切実さも、痛いほどに理解できた。建国直後、外的な事情から、巨大な負担をになわざるをえなくなった朝鮮戦争への参戦。それが終結して以後、今度は、内部的な誤りが引き起こした「大躍進」、「文化大革命」などの連続した動乱の二十年。それらを経てようやく、見通しのある経済建設の軌道を確立したのである。
ふたたび、戦争によって、この軌道が狂わされるようなことがあったら、建国の事業そのものがたいへんな痛手をこうむることになる。
自分たちの建国の方針、外交の方針の短い解説ではあったが、その言葉を、革命勝利後五十余年の歴史と重ねあわせてみて、私が、内心、つかみとったのが、「建設のための平和的な国際環境の確保」――ここに、中国外交を理解するキーワードがある、ということだった。
今回、唐外相自身の口から、まとまった形で聞いた国際情勢論、外交政策論も、私のその見方を裏づけるものだった。