2002年10月8日(火)「しんぶん赤旗」
首脳会談での私の最初の発言は、大要をすでに「しんぶん赤旗」(九月五日付)に発表してあるので、参照していただきたいが、まず最初に取り上げたのは、北東アジアの平和と安定の問題、なかでも、日本、中国、朝鮮半島の三者のあいだに、安定した平和の関係をきずくための努力である。
四年前の首脳会談では、私は、日中間でまもるべき関係の基準として「日中関係の五原則」を提唱した。この日の夜の「宴会」の席でこの話が出たとき、政治局委員で社会科学院院長の李鉄映(りてつえい)さんは、「それは、政界でも理論界でも有名な五原則ですよ」と即座に答えたから、中国ではすでに一定の市民権をえているようである。しかし、情勢はさらに進んで、日中関係を大事な軸にしながら、北東アジア全体の平和関係の構築を考え、すでにこの点では先んじた発展の状況を見せている東南アジア諸国の努力とこれをつなげてゆく必要がある――今回、北東アジアの三者の関係という形で問題を取り上げたのは、こういう問題意識にたってのことだった。
私のいだいている問題意識は、戴秉国(たいへいこく)部長との会談のなかで、日本、中国、朝鮮半島のそれぞれにかかわって、かなり立ち入って説明していた。それで、すでに報告ずみであろうことを念頭において、この席では、問題のごく簡単な説明にとどめた。
しかし、江総書記は、的確に私の問題提起をとらえ、そのあとでの自分の発言のなかで、とくに朝鮮の南北関係にたいする中国の態度について説明した。一昨年の上半期に大きく進んだ南北対話が、その後停滞し、また進展しはじめた状況に触れながら、「朝鮮半島の情勢については、私たちの立場は明確だ。朝鮮半島の安定に寄与すること、南北関係の平和的解決を促進することに有利なものにはすべて賛成する、マイナスになるものには反対する、ということだ」と述べる。
私は、江総書記のこの発言が、「北」と「南」のどちらを主としどちらを従とするといった関係でなく、南北の関係にたいへん冷静に対応している、という点に、注目した。
世界情勢の問題では、私は、唐家セン(とうかせん)外相に話したことの繰り返しは避け、問題を昨年のテロ事件以後にしぼり、とくに対テロ報復戦争といまアメリカが計画している対イラク軍事攻撃とのあいだには、世界の平和のルールの立場から絶対に見過ごすことのできない決定的な違いがあるということ、このことを浮き彫りにする点に、まず中心をおいた。なんの具体的証拠もなしに、アメリカがその国を疑っている、憎んでいるというだけで、軍事攻撃をくわえる、しかも核兵器の使用の可能性さえ、公然と問題にする、というのは、国連憲章が明確に禁止している「先制攻撃」にほかならない。
そしてまた、イラクにたいして、この種の「先制攻撃」が実行されたとしたら、アメリカは、同じ論理で、将来、中国に「先制攻撃」をくわえる権利を手にいれたことになる――私は、アメリカ国防総省が今年発表した二つの報告、とくに八月に発表したばかりの「国防報告」を詳しく紹介して、イラク攻撃のさしせまった情勢のなかで、アメリカが「国防報告」を発表し、中国が、アメリカが「先制攻撃」戦略の矛先を向けるべき対象国であることをわざわざ宣言した意味を重視すべきだ、と強調した。(つづく)