日本共産党

2002年10月30日(水)「しんぶん赤旗」

北京の五日間(43)

中央委員会議長 不破哲三

30日 日中友好への共通の思い(三)


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不破さんの「歴史教科書」批判論文を載せた「しんぶん赤旗」と著書『歴史教科書と日本の戦争』(小学館)

戦争を推進した潮流が、日本の政界では戦後も存続しつづけた

 私は、続けて、日本の政治状況に話をすすめた。

 ――国民の友好感情が冷え込んだこの状況を、過去の戦争を「正しい」と主張する人びとが利用して、わがもの顔にふるまいだした、というところに、最近の状況の一つの特徴がある。

 ――この勢力は、にわかに現れたものではない。根本は、戦後の日本の、ドイツやイタリアとは違った特異な政治状況にある。ドイツやイタリアでは、ヒトラーの戦争やムソリーニのやった戦争を「正しかった」と主張するものは、戦後の政界に存在する場所がなかった。過去に侵略戦争を推進した勢力と、戦後の政治の担い手のあいだには、明確な一線が引かれた。

 ――しかし、日本では、アメリカの占領政策の影響もあって、戦争を推進した政党の後継者が、国政の担い手となった。戦争中、政権党の地位にあった政友会や民政党が、戦後、自由党、進歩党などと名前だけ変えて発足した。アメリカは、そのうちの一部の指導者を政界から「追放」しただけで、政党としてはその存続を認めた。こうして、日本の政界では、戦時の戦争推進の流れを継いだ人びとが、政治を支配した。

 ――やがては「追放」された政治家たちも復活した。ついには、A級戦犯の容疑でいったんは逮捕された岸信介のような人物が、自民党の総裁になり、首相になるということまで起こった。そうである以上、この党のなかに、過去の戦争を「正しい」とする有力な流れが存在するのは、当たり前のことになる。

日本では、右翼勢力は政権党の内部にいる

 ――つまり、日本では、政権党の外にではなく、政権党そのもののなかに、そういうタカ派勢力、右翼勢力がある。

 歴史的な根源にさかのぼっての説明だったが、中国側の出席者が、非常な関心をもって、時には深くうなずきながら聞き入る様子が分かる。

 ――しかし、七〇年代ごろまでは、戦争を経験した世代が国民の多数だったし、中国にたいする国民感情もよかったから、タカ派勢力も、自分の主張をあまり公然とはいえなかった。しかし、さきほど述べたように、天安門事件で国民感情が冷え込み、戦争を経験しない世代が、国民の多数をしめるようになった状況を利用して、右翼勢力が、機会あるごとに、その主張をよりあからさまに持ち出すようになった。

 ――もう一つの要因に、日本の自衛隊を自分の戦争に引っ張りだしたい、というアメリカの思惑がある。この動きが進行するごとに、政治におけるタカ派の傾向が強まり、侵略戦争の歴史を正当化しようとする反動的な動きも強まってきた。

 私は、この動きにたいして、どういうたたかいが必要になっているかに、話をすすめた。

 ――ある時期までは、そういう発言が出たとき、「明白な侵略と戦争の事実を否定するのか」という議論だけで、ことが決着した時代もあった。しかし、いまでは、戦争の問題でも、事実と道理にもとづいて真実を明らかにしてゆく努力が、いままで以上に大切になってきた。

歴史問題でも「実事求是」の精神が必要になっている

 ――あの『歴史教科書』に見られるように、相手側は、あの戦争は、これこれの理由で正しい戦争だったという議論を、正面から仕掛けてきている。これを、事実と道理をしめして論証的に打ち砕くことが、私たちの仕事になっている。私自身も、政党として、彼らの戦争論を正面から論破する仕事に取り組んだ。そのなかでは、たとえば、「南京事件」の問題でも、事件に参加した将校自身の手記なども活用して、誰も否定できない事実をもって真相を明らかにすることにつとめた。

 ――中国国民のあいだでは、実際の経験に裏付けられた明白な事実であっても、日本では、あなたがたの言葉を借りれば「実事求是」(じつじきゅうぜ)の精神で、事実と道理をもって歴史の真実を証明してゆく苦労が大事だ。

 ――ただ、私たちは、このことをあなたがたにやってほしいとは言わない。これは、私たち自身の問題だ。前に中連部の戴秉国部長と話したとき、あなたがたへの「希望」を述べたが、それは、外交活動で、対政府外交だけでなく、対世論外交を重視してほしい、ということだった。もっと具体的にいうと、日中の政府間で批判や論争がある時でも、中国側は、どんな道理に立って行動しているのかが、日本の国民が理解できるような、事情説明の活動を重視してほしい、ということだ。

 これは、戦争の問題だけではない。別の例だが、瀋陽事件のときにも、そういう説明は、中国側からは聞かれなかった。

 (つづく)

 


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