2008年10月11日(土)「しんぶん赤旗」
派遣労働、民主党の国会対応、金融危機と景気対策について
CS放送「各党はいま」 志位委員長が語る
日本共産党の志位和夫委員長は十日放映(九日収録)のCS放送・朝日ニュースターの「各党はいま」に出演し、朝日新聞の早野透編集委員の質問に答えました。テーマは、派遣労働をめぐる志位氏の衆院予算委質問(七日)、補正予算案や新テロ特措法延長案への民主党の対応、金融危機など多岐にわたりました。その要旨を紹介します。
「使い捨て」労働をなくす――違法状態の是正と一体に派遣法改正を
早野 予算委員会では「働く貧困層」について、さすが共産党だけあって現場のデータも踏まえてお話しされていた。質問のポイントと、なぜこの問題を重視するのかのお話を。
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志位 貧困と格差の広がりが一大社会問題になっていることは誰しも否定できないことだと思います。この一番の根源は、人間らしい雇用のルールを壊してきたことにあります。なかでも派遣労働は人間を「使い捨て」にする労働の究極の形です。この問題の解決なしに日本の貧困問題、格差問題は解決しません。
早野 (質問では)トヨタの話をしておられた。いまの企業の実態はどうとらえるべきですか。
志位 この間、派遣法の改正の議論が与野党を超えて出てきたということは変化の第一歩です。ただ、同時に大企業の現場では現行法すら守っていない違法状態がまん延している。違法状態をただすことと一体に法改正をすすめていく必要があります。
トヨタでいうと、「トヨタ車体」というグループの中核企業が、A直、B直という日勤と夜勤を交代しながら、まったく同じ仕事をやっているラインで派遣を使い回しにして、期間制限を超えて使い続けようとしています。
派遣法では、派遣はあくまで一時的、臨時的なものとなっています。どんなに長くても三年以上使ってはいけない。三年という期間が来たら受け入れ先の企業はその労働者を直接雇うことを申し出ることが義務になっています。にもかかわらず、こうした違法な形で、いつまでも派遣という奴隷的な「使い捨て」労働、いつでも首を切れる労働をやらせる。ひどい悪だくみですね。
早野 (質問で志位氏が示した)パネルを見て、これはなかなかの悪知恵だなという感じがしました。
志位 トヨタ車体では、本当に悪らつな方法で永久に派遣を使い続けようとしている。永久に派遣ということは、永久に正社員の道を閉ざすということです。
早野 (首相の)麻生さんが「これが事実とすれば不当である」と認めました。
志位 これは非常に重要な答弁です。私が、日亜化学やキヤノン宇都宮光学機器で偽装請負を告発したために職を失うというひどいことがやられ、これを理不尽だと思わないのかと聞いたのに対して、「事実ならきわめて不当」と答弁しました。これはたたかいをすすめる上でも今後の足がかりになると思います。トヨタの問題も「現実に照らして指導を行う」と言いましたから、現実を見れば指導をせざるを得ない。ですから、きちんと是正させていく必要があります。
補正予算賛成の民主党――国民不在の党略的対応
早野 民主党は補正予算に賛成してとにかく早く解散だという態度をとっています。これをどうごらんになっていますか。
志位 民主党の態度は、きわめて党略的で、国民の利益不在の対応です。補正予算案のなかには、後期高齢者医療制度を続けることを前提とした小手先の見直しが入っています。賛成すると後期高齢者医療制度を前提としたことになってしまいます。
早野 (民主党は)インド洋の給油は、けしからんと去年は言っていました。
志位 (新テロ特措法延長案について民主党は)本会議で趣旨説明をやらないですぐテロ特別委員会で通してくれ、一日でも一時間でも審議すればいいんだということを言うわけです。去年から今年にかけて、アフガニスタンの実態は治安状況が一段と悪化して、いよいよ戦争ではテロは解決できないことがはっきりしています。
カルザイ政権もタリバンに対して政治的解決のための交渉を呼びかけています。政治的解決の方向に切り替えなければならないという重大な局面の変化が起こっているわけです。徹底審議が必要なのに、これを一日で結構ですということは、本当に道理が立ちません。
結局、反対といっていても口先だけのものだったということが露呈されました。(衆院予算委での)民主党の質疑は、取り扱っている問題はそれぞれ重大であっても本質に迫らないから、(政府・与党には)痛くもかゆくもない論戦になっています。
「脱官僚」は言っても大企業・財界の横暴とたたかう姿勢はかけらもないわけです。アメリカいいなり政治の根本をただす立場がないわけです。この二つがないわけですから大事な問題を扱っても、本質に行き着かない。民主党の正体みたりという感じです。
カジノ資本主義の破たん――庶民への犠牲転嫁は許されない
早野 (米国の)リーマン・ブラザーズ(の破たん)から(金融危機が)世界に飛び火しています。この状況をどう把握し、立ち向かうべきだと思っていますか。
志位 まず起こっていることの事態を、ひと言でいうと、カジノ資本主義の破たんだということです。
つまり、いまの世界の資本主義は、金融経済が実体経済に比べてだいたい三倍くらいの規模に巨大化してしまった。そういう中で、過度な金融投機が横行し、詐欺やイカサマがはんらんする。その典型例が、サブプライムローンの問題でした。そういうばくちの胴元の一つだったリーマン・ブラザーズがつぶれた。それをきっかけに金融の危機が連鎖的にアメリカ、ヨーロッパを覆うという事態になったわけです。
アメリカの資本主義はこの間、“投機で経済を活性化する”というやり方をずっととってきた。こういう投機資本主義、カジノ資本主義というやり方では、結局、大破たんが起こるということが明らかになったことが、一つ大事なところだと思うんです。
日本でも、それに右にならえで、政府は「貯蓄から投資へ」と国民の大事な財産を危険にさらす旗振りをしてきた。さらに、日本の証券市場も資本の自由化を進め、投機マネーをどんどん呼び込んできた。こういうやり方をアメリカ追随でずっとやってきたわけだけれども、これをまずたださなければならない。これが第一点です。
二つ目に、そういう中で日本の経済はどうあるべきかという問題があります。
世界規模で金融危機が起こり、それが実体経済にも悪い影響を与え、日本にも及んでくる。その時に、国民、庶民に犠牲を負わせるような対応をするのか、それとも国民、庶民の暮らしを守るという対応をするのか、ここで分かれてくると思うんです。
こういう状況になると、大手の企業、たとえばトヨタにしても、北米向けの車をつくっているところは減産に入っています。減産になったらまず派遣労働者、期間社員を切ってくる。労働者が「使い捨て」にされる。そういう事態を許していいのか。
あるいは、中小企業に単価切り下げをうんと求めてくる。それから、大手銀行は、あれだけもうけていながら、中小企業への貸し渋り、貸しはがしをどんどん始めようとします。これはすでに始まっていますが、これを許していいのか。
たとえばトヨタはバブル時の二・二倍のもうけをあげて、十四兆円もの資産をためこんでいます。大企業に、ためこんだ利益をはきださせて、社会的責任を果たさせる。すなわち雇用の責任、中小企業への責任、社会保障や税金の面でも責任をちゃんと果たさせるという形で国民の生活を守っていく。
そして、政治の責任としては、国民への犠牲転嫁を許さず、国民生活擁護最優先の政策をとる必要があります。「働く貧困層」をなくす対策をちゃんととる。人間らしい労働のルールをつくる。社会保障の拡充をはかる。中小企業や農業を守る。消費税増税計画はやめ、庶民への減税をはかる。こうやって内需をずっと土台から盛り上げて、外需頼みから内需主導に、大企業から家計に軸足を移す経済政策の転換をはかる。こういうことをやるかどうかが、分かれ道なんです。
いかに庶民の生活を守る政策をとるか。この政治のかじ取りが、非常に厳しく問われていると思います。
公的資金投入をどう考える
早野 アメリカでは公的資金を投入することにしたのですが、市民には不満がある。こういう金融危機の時に公的資金を投入すべきなのかどうか。
志位 アメリカでどう対応すべきかは、現在進行形でアメリカで起こっている事態ですから、私が踏み込んで発言するのはなかなか難しい面があります。しかし、米国民のなかからも、批判が強いのは事実です。問題になっているAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)にしてもこれまでぬれ手で粟(あわ)の大もうけをしてきた企業ですから、「どうして税金で救うんだ」という批判は当然です。
こういう事態になると、「公的資金の投入は当然だ」「日本でもためらわずおこなえ」という議論がはんらんするんだけれども、これまではアメリカにも節度はあって、一九八〇年代後半から九〇年代初めにかけて商業銀行の倒産があいついだ時も基本的に公的資金を入れないで、一時的に(連邦資金調達銀行から)貸し付けはやったけれども、銀行側はそれを全額返すということをやった。だから、短期の資金がなくなった時には貸し付けることはあってもいいと思う。しかし、税金を全部くれてやるというやり方を無制限に始めたら資本主義のモラルは土台からいよいよなくなってしまうことになります。
私たちは一九九八年の(日本での)金融危機に際しても、本当に金融の“システミックリスク”があるんだったら、日銀が貸し付けることはあってもいいと言いました。しかし、公的資金を入れて返ってこなくてもいいというやり方をしたらモラルハザード(倫理の欠如)になって国民にたいへんな被害が及ぶ。絶対にそれはだめだと言いました。日本ではそういう対応をすべきだと思います。
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