2008年12月11日(木)「しんぶん赤旗」
主張
WTO農業交渉
議長案は拒否する以外にない
世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)で、農業交渉の大枠のたたき台となる議長案(第四次案)が発表されました。同案は日本にいっそうの市場開放を要求し、日本農業の壊滅につながるもので、農業者と国民に危機感を与えています。
公正な貿易ルールを
七月に決裂した交渉は農産品でも非農産品でも依然として根強い対立を抱えたままで、今回も閣僚会合の日程さえすんなり決まらない状況です。無理を承知で市場開放を各国に押し付けるWTO事務局のやり方には根本的な反省が求められています。政府は議長案を拒否するとともに、公正な貿易ルールづくりに尽力すべきです。
議長案は、関税大幅引き下げから除外できる「重要品目」の数を全品目(千三百三十二品目)の「原則4%」としています。「8%」との日本の主張からかけ離れたもので、乳製品や砂糖、コンニャクも関税が大幅に引き下げられ、壊滅的な打撃を受けます。
「6%」まで認める場合、低関税での輸入量を増やす代償措置を求めています。日本のミニマムアクセス(MA=最低輸入機会)米の輸入量は現行の年約七十七万トンから百十四万トン超に増えます。唯一自給が可能なコメ生産が受ける打撃ははかりしれません。
日本の食料自給率は40%と先進国中最低です。食の安全をめぐる問題などを通じて、自給率を抜本的に引き上げる必要があるという点で国民的な合意があります。
政府も最近、自給率50%以上をめざすことを表明しました。政府には日本農業を破壊する提案を断固拒否する責任があります。
ドーハ・ラウンドの交渉は、立ち上げ時にも枠組み設定にあたっても決裂や中断を重ねてきました。新自由主義的な貿易自由化路線が各国で貧困を拡大し、公正で秩序ある経済発展を妨げてきたからです。
昨年来、世界的な投機が食料の異常な高騰を招き、途上国をはじめ世界の人びとの生活を脅かしています。国連食糧農業機関(FAO)は九日、食料価格の高騰で世界の飢餓人口が今年は四千万人増加し、九億六千三百万人に達したと警鐘を鳴らしています。食料生産を他国まかせにすることは許されず、各国が農業生産を高めることこそが求められています。
WTO事務局は米国発の金融危機を貿易自由化に弾みをつけるテコに使い、七月に決裂したばかりの交渉を復活させようとしています。しかし、いまやるべきはWTO協定による市場原理主義がもたらした事態を検証し、抜本的に見直すことであって、妥結を急ぐことではありません。
輸出主導型経済の転換
政府が工業品の輸出拡大を優先させて農産物の市場開放要求に応じてきたことが、自給率の異常な低さをもたらしました。今のラウンドでも日本だけが自動車産業の関税撤廃を求めるなど、輸出優先の姿勢は変わっていません。
政府の姿勢はこの点でも厳しい批判を受けています。内需をないがしろにした輸出頼みの経済がもつもろさが、世界的な金融危機のなかで日々明らかになっているからです。日本農業を強化し、自給率を抜本的に向上させることは、内需を基礎にした経済への転換にとって柱の一つです。
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