2003年6月19日(木)「しんぶん赤旗」
「ラムズフェルド米国防長官は、米国だけが世界の軍事、経済、金融を支配していると考えている。われわれはこの見解に同意しない」。フランスのミシェル・アリヨマリ国防相は十四日、仏紙ルモンドとのインタビューで強調しました。
米国からの風当たりに直面して仏外交専門家の中には、イラク問題でブッシュ米政権に盾突いて対米関係を傷つけたことへの懐疑もありますが、シラク外交に大きな揺らぎはみえません。
むしろ、これまで以上に筋を通そうとする姿勢が現れています。最近の事例は国際刑事裁判所(ICC)の問題です。同裁判所への米国人の訴追免除を認めた国連安保理決議の採決(十二日)で、フランスはドイツとともに棄権に回りました。両国とも昨年は賛成し全会一致でした。
戦争犯罪や人道に対する罪を犯しても、米兵だけは訴追されない―国際法の適用へのそんな「二重基準」の持ち込みには賛成できないとの意思表示でした。
仏外交官は自信をのぞかせています。英誌『エコノミスト』最近号は仏当局者のこんな言葉を伝えました。「米国は勝利してもイラク戦争を正当化できない。軍事行動によって混乱とテロが助長され自業自得だ。もし大量破壊兵器が発見できなければ、戦争反対の立場が正当化される」
こうした自信の背景は仏が主催国となった先のエビアン・サミット(主要国首脳会議)でみられました。
エビアンでの最大の見せ場は、サミット終了後のシラク大統領の記者会見でした。
「国際社会、国連安保理によって容認されないいっさいの軍事行動は不当、不法である」「私は(イラク戦争を)認めなかったし、今後とも認めない」「単独で戦争することはできるが、単独で平和をつくることはもっとはるかに困難だ」「総じて賢明さというのは、国際的なルールを持ち、それを守ることだ。これが私の立場だ」
シラク氏はこういいきると「ありがとう」とのべ会見を終えました。「イラク戦争に反対し妨害したフランスは懲罰する」。そう公言してサミットを早退したブッシュ米大統領への強烈なカウンターパンチでした。
「以前から私が擁護している多極的な世界観が、世界の圧倒的な多数派であることに何の疑いも持っていない」
シラク大統領はこう強調しています。サミット初参加の中国をはじめ発展途上国十二カ国首脳との「拡大対話」では、貧困や飢餓といった今日の世界の大問題を語りあい、打開策を提起しあいました。
中国の胡錦濤国家主席との首脳会談では「均衡のとれた多極システム、多国間機関の役割、異なる文化の間の対話の必要性を強く支持する」ことを確認しました。
いま世界では国連憲章に定められた平和の国際秩序を守るのか、米国の横暴勝手を押しつける覇権主義の国際秩序かをめぐる争いが地球的規模で展開されています。
戦後のフランスには西側同盟の一員としての結束とともに、米国から一定の距離をおき独自の「大国」路線を追求する側面がありました。その仏外交がイラク危機を通していま、ブッシュ政権の一極世界論には多極世界論を、単独行動主義には多国間協力と国際法とくに国連憲章にいう平和の秩序の擁護を対置し、そこにフランスの道を求める姿勢を鮮明に打ち出しています。(パリで浅田信幸)
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イラク戦争など米国の覇権主義の深刻な逆流がうまれる一方、平和のルールと秩序を守り回復する力強い動きがみられます。激動する国際政治のリアルな流れをシリーズで追いながら、歴史の本流を探ります。(つづく)