2003年6月30日(月)「しんぶん赤旗」
ブッシュ米大統領によってイラク、イランとともに「悪の枢軸」と決めつけられた北朝鮮の金正日・朝鮮労働党総書記の動静が、三月二十日のイラク戦争開戦から五十日間にわたり、同国の報道から消えました。韓国の北朝鮮専門家らは、「金総書記は、白頭山の地下シェルターに身をおき、戦争の行方を見守っていた」といいます。
「危険性が現実化している米国の対朝鮮孤立・圧殺戦略に対処する正当防衛措置として、われわれの自衛的核抑止力の強化にいっそう拍車をかける」(十八日、北朝鮮外務省スポークスマン声明)
大量破壊兵器の開発を否定していたイラクとは逆に、北朝鮮は核兵器の開発を公言し、核カードを使う瀬戸際外交をエスカレートさせています。
北京で四月二十三―二十五日に開かれた米朝中の三カ国協議の継続が不透明ななか、米国は“包囲網”の布石を打っています。北朝鮮を非難する国連安保理議長声明の草案、北朝鮮船舶の臨検に向けた国際連携、一九九四年の米朝合意に基づく軽水炉建設の中止、などを各国に打診中です。ライス米大統領補佐官は、“イラク型の武力行使”の可能性を示唆しました。
しかし、世界各国、特にアジア諸国は米国の動きに単純に同調していません。北朝鮮も参加するアジアで唯一の安保協議体である東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)は十八日の議長声明で、北朝鮮に国際原子力機関(IAEA)への協力と核不拡散条約(NPT)への復帰を要求しました。
ARFには、米国も参加しています。五月の米韓・日米首脳会談がそれぞれ北朝鮮への「いっそうの措置」と「より強硬な措置」に言及したように、米国は強硬な対応への同調を他国に迫ってきました。これに対しARF議長声明は、「地域の永続的な平和と安保のために核問題の平和的な解決」を前面に掲げました。
韓国の盧武鉉大統領は、朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)から五十三年目を迎えた二十五日、「北朝鮮の核開発は決して容認できないが、必ず平和的に解決しなければならない」と強調しました。
米朝中三カ国協議のホスト国となった中国の李肇星外相は二十七日、「北朝鮮と米国の間に問題があるなら、平和のための交渉だけが正しい方法だ」と指摘しました。
日米、米韓、さらに七日の日韓首脳共同声明は、核問題を他の懸案とともに「包括的に解決」するとの原則も明記しています。この立場から韓国の尹永寛・外交通商相は十八日、パウエル米国務長官に「われわれが具体的な提案をつくり、北朝鮮に提案すべきだ」と主張しました。
アナン国連事務総長の朝鮮半島問題特使であるストロング国連事務次長は十七日、北朝鮮の核開発凍結、北朝鮮への重油供給の再開などの暫定合意をへて、米朝不可侵協定、北朝鮮への核査察、米朝外交関係の樹立などを実現するという提案を発表。平和的解決をめざす包括的提案につながる要素を持っています。
北朝鮮の核開発の完全な放棄と、北朝鮮をめぐるさまざまな懸案の平和的で包括的な解決を求める声が、アジアから世界に広がっています。こうした動きは、軍事力行使や先制攻撃の選択肢へのブレーキになっています。(面川誠記者)