2003年7月30日(水)「しんぶん赤旗」
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世界を支配するのは米国だ。それが当然だし、世界のためにもなる。わからないものには武力を使うしかない。
そう公然と語るネオ・コンサーバティズム(新保守主義)、略してネオコンの人々、政治家、評論家などなど。そのグループの総本山といわれる研究機関がアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)です。
七月十七日。首都ワシントン中心部の同研究所で、公開のセミナーがおこなわれました。テーマは「米国は帝国(エンパイア)であり、帝国であるべきだ」。AEIの中核的理論家ロバート・ケーガン氏はむしろ控えめで、客員的論客のファーガソン・ニューヨーク大学教授があけすけに強調したのでした。
「海外に多数の軍事基地をおき、世界の軍事費の四割以上を占める米国が軍事、経済そして文化を支配している」「米国は帝国である。自由市場と民主主義を世界に広げるために、帝国とならなければならない」
チェイニー副大統領、ウルフォウィッツ国防副長官、ボルトン国務次官…。ネオコン人脈はブッシュ政権の要職ポストを占め政策決定に影響力を及ぼしています。その戦略は彼らが「ならずもの国家」と勝手に決める国々に対して先制攻撃も辞さないというものです。イラク戦争はその実行でした。
「しかし実際のところ、ネオコンはどれくらい米国で支持されているのか」。実はその評価に最近、大きな変化が現れています。戦争の理由にした大量破壊兵器が見つからず、イラク人側からの襲撃で米兵が連日犠牲に。『ニューズウィーク』七月二日号は「“泥沼”という恐れられた言葉が政権内部でささやかれ始め」「ネオコンは守勢にたたされている」と指摘しました。
イラク現地を視察したばかりのウルフォウィッツ国防副長官は治安状況が「想像したよりひどい」と誤算を認める発言をしました。
AEIのセミナーは公開というのに、ネオコンに論戦を挑もうと集まった平和活動家が排除されました。会場に入れなかった活動家らは、AEIのビルの前で集会を開きました。無法なイラク戦争とネオコンの先制攻撃戦略の危険性を活動家が次々と批判。通りすぎる背広姿のビジネスマンのなかには、こぶしを掲げて連帯を表明しながらゆく人も少なくありませんでした。
AEIビル前の通りで集会をみていた年配の女性は「普通の市民のほとんどはAEIのことも、AEIの人々が何をいっているかも知らないでしょう。事実を知れば、この国の世論も変わってくると思いますね」。
米国がイラク戦争に突入したころ、世論調査で戦争支持は米国民の七割以上、ときには八割をこえました。しかし今、その様相は明らかに変わってきています。米国民の戦争支持はやっと五割。急速に下がりつつあります。民主党内の複数の議員は「戦争の計画は達者だが、平和の構築では無策だ」(リーバーマン上院議員)とウルフォウィッツ副長官を公然と批判します。同副長官が漏らしたイラク戦争についての「誤算」とは実は、ネオコン路線、ブッシュ政権の一国行動主義、先制攻撃戦略そのものの誤算につながる予兆ともみられています。(ワシントンで遠藤誠二 写真も)(つづく)