2018年2月24日(土)
主張
裁量労働偽データ
法案提出への固執は通用せぬ
裁量労働制の拡大をめぐる安倍晋三政権の労働時間データの捏造(ねつぞう)問題は深刻な広がりをみせています。安倍首相が撤回した「裁量労働制の方が労働時間は短い」という答弁の根拠になったデータが偽りだっただけでなく、200件を超える規模のデータの誤りが次々発覚するなど、政権ぐるみのデータ偽装・隠ぺい疑惑の様相を呈しています。裁量労働制の拡大を柱の一つとする「働き方改革」一括法案の前提がいよいよ成り立たないのに、安倍政権は施行日を遅らせるなどして、あくまで法案の国会提出に固執しています。こんな姿勢はとても通用しません。
調べれば調べるほど
ないといっていた資料が倉庫から見つかる。調べれば調べるほどおかしな数値のデータが存在する―。安倍政権と厚生労働省のずさん極まる姿勢と対応に国民の怒りと不信は高まる一方です。
撤回した首相答弁のもとになった2013年度「労働時間等総合実態調査」のデータでは、一般労働者の労働時間が裁量制の労働者より長くなるよう加工されていたことなどが明らかになっただけでなく、調査の元資料でも考えられないでたらめな数字が続々と判明していることは重大です。
ある人の残業時間が1週間分で「35時間」だったのに対し、1カ月分では「2時間30分」と逆に短くなるなど、とてもありえません。そのような異常値が少なくとも一般労働者で117件、裁量労働の人で120件あったことなどを厚労省も認めました。
なぜこんなずさんなデータなのか、だれがどういう意図でデータを捏造したのか。洗いざらい明らかにすることが求められます。
法案の根拠が揺らいでいるのに、安倍首相は労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論して了承されていると法案提出の姿勢を崩しません。しかし、労政審に報告されていたデータは、偽りを含んだうえ、実態をゆがめる調査に基づいたものだったのに、そうとはわからないまま示されていたのです。裁量労働の方が長い実態を示す労働政策研究・研修機構の調査結果は報告されませんでした。
「働き方」法案のもとになった労政審「建議」(2015年2月)には「長時間労働を抑制し、仕事と生活の調和のとれた働き方」を広げることを「喫緊の課題」としていました。議論のベースとなるまともなデータが政府側から一切示されなかったことは明らかです。
だいたい「働き方」法案については官邸直結の財界主導の会議で大枠を決め、労政審に押し付け、労働者代表の反対を抑えて決めたものです。労政審を持ちだして法案を正当化することはできません。きちんとした実態をもとに議論のやり直しこそ必要です。
世論の力で提出断念を
首相は“詳細に把握していない”“答弁は厚労省から上がってくる”と人ごとのような答弁を続けていました。最重要法案といっておきながら極めて無責任です。
マスメディアの世論調査では裁量労働制拡大に「賛成」17%に対し、「反対」58%にのぼります(「朝日」20日付)。日本共産党など野党6党は「働き方改革」一括法案の国会提出に一致して反対しています。世論と運動の力で安倍政権を追い込み法案の国会提出を断念させることがいよいよ急務です。