2018年3月2日(金)
裁量労働制拡大の断念
政権に打撃 与党内にも異論
改憲への影響も懸念
「首相官邸と自民党に対する批判が強い。裁量労働をめぐる労働時間に関する異常値やデータの誤りはまだ出てくる。これでは加藤(勝信厚労相)の責任問題になる。加藤が辞めることになれば政権には重大な打撃だ。今のうちに引くしかなかった」
国民の怒り恐れ
自民党ベテラン議員の一人は、安倍晋三首相が「働き方改革」一括法案から裁量労働制拡大を全面削除した背景についてこう述べ、「これまでとはちょっと様子が違う。森友問題、佐川国税庁長官への批判も重なって、支持率が下がるリスクが大きい」と唇をかみます。安倍首相が自ら「働き方改革国会」と命名した今国会で最重要法案の一角である裁量労働制拡大を断念したのは、虚構の極みに対する国民の怒りを恐れてのものです。
同議員は、安倍首相が個人的に加藤厚労相を重用してきた経緯を指摘し、「裁量労働制の拡大は経団連との約束だ。これをほごにすれば重大な失点になる。党内からも批判が出る」と述べました。
1日未明、政権幹部がデータの捏造(ねつぞう)問題や相次ぐ異常値の発覚について「(厚労省の)現場が信用できない」などと述べたことなどを受けて、自民党の閣僚経験者の一人は「財界との合意に基づき政治主導でこの問題を進めてきたのは官邸だ。責任を現場に押し付けるのはおかしい」と批判。裁量労働はもともと労働時間を労働者の「裁量」に任せる建前であることも踏まえ、「そもそも裁量労働で実際の労働時間がどうかという記録をまともにとっている人がいるのか。(一般労働者との労働時間の)比較自体が無理だ」と述べます。裁量労働制で「労働時間が異常に長くなる」と批判を受け、無理な打ち消しをしようとしたことで墓穴を掘ったことを与党議員自身が認めた格好です。
別の自民党議員の一人も「財界は、裁量労働と一般労働を比べるのはセンチとグラムを比較するようなものだと言っている」と皮肉り、「たまには安倍政権が一本取られるのもいい」と突き放します。
二兎を追う者は
他方、9条改憲の動きとの関連を指摘する声も相次ぎます。
日本会議系の自民党関係者の一人は「安倍政権は今度の国会では二兎(と)を追っている。働き方改革と憲法改正だ。裁量労働制の問題でこれ以上与野党対立が激しくなれば、改憲論議に影響が出る。安倍首相にとっては改憲が一番の課題だ」と指摘。「公明党は改憲に消極的で、与野党合意を重視している。これ以上与野党の溝が深まるのはよくない。憲法がなければ押し切っているだろうが、改憲がハードルを高くしている」と述べます。前出の閣僚経験者も「でたらめばかり言っているというイメージがつけば改憲どころではなくなる」と述べます。
2018年度予算案の衆院通過を強行した安倍政権は、衆院での憲法審査会の起動を狙っています。
日本共産党、立憲民主党、民進党、自由党、社民党と希望の党も含めた6野党が結束して安倍虚構政治を厳しく追い詰めてきました。予算審議は参院に移りますが、広範な国民世論とともに追撃を強めるときです。
(中祖寅一)