2018年3月12日(月)
主張
「TPP11」署名
“米国抜き”でも危険変わらぬ
アメリカのトランプ政権が離脱し、発効できなくなっていた環太平洋連携協定(TPP)について、アメリカを除く11カ国が一部を留保したうえで新協定として署名、過半数の国が批准すれば発効される見通しとなりました。留保になったのは知的財産権の保護など、アメリカの強い要求で盛り込まれていた部分です。農産物を含む関税の原則撤廃、輸入特別枠の設定、投資の自由化などは変わりません。アメリカが再交渉を求めてTPPに復帰する可能性や、2国間交渉で日本などに譲歩を迫る動きも強まっており、“アメリカ抜き”の協定でも危険性は明らかです。
TPPをよみがえらせる
TPP参加12カ国のうちアメリカを除く11カ国が署名した新協定(「TPP11」)は、別の協定とはいえ一部を除いて旧協定の条文をそのまま組み込んでおり、TPPをよみがえらせるものです。
TPPは、多国籍大企業や国際競争力の強い国の利益を優先し、関税の原則撤廃や投資の自由化を参加国に押し付け、各国の経済主権や食料主権を侵害すると、参加各国の国民のなかで反対する声が高まっていました。主導したアメリカの国内でも反対世論が盛り上がり、一昨年の大統領選挙では主要候補が反対を掲げました。トランプ大統領が就任(昨年1月)直後、離脱を表明したのも、そうした国内世論があったからです。
日本でも、とりわけ農業が壊滅的な打撃を受け、食の安全や医療、雇用、地域経済も脅かされると広範な団体・個人が反対したのに、安倍晋三政権は参加を強行しました。トランプ政権の離脱後もTPP復活に固執して、復帰を期待しながら当面11カ国での交渉をと呼びかけ、合意に持ち込みました。
11カ国による交渉過程で、TPPでアメリカから押し付けられた部分への不満が各国から噴出し、多国籍企業が相手国を訴える紛争処理手続きや知的財産権に関わる医薬品の特許期間延長など、22項目を凍結することになりました。ところが安倍政権は農業者が一致して反対した農産物関税の撤廃についてさえ何の修正要求もせず、そのまま受け入れたのです。
「TPP11」は、アメリカが抜けて「よりまし」になったどころか、日本農業などにはTPP以上の打撃をもたらすものになりかねません。例えばTPPで譲歩した乳製品の輸入枠はそのまま維持され、アメリカが抜けた分はオーストラリアやニュージーランドなどの輸出が拡大する恐れがあります。そうなればアメリカの畜産業界が不満を募らせ、トランプ政権が日本との2国間交渉などでいっそう圧力を強めてくるのも必至です。
批准阻止に力合わせて
トランプ政権は一方でTPP復帰に向けた再交渉の可能性をちらつかせながら、あくまでも「アメリカ第一」の立場で各国との2国間交渉も迫っています。鉄鋼やアルミ製品の輸入制限の動きもあります。安倍首相は、「TPP11」を結ぶことで2国間交渉の圧力を防げるかのようにいいます。しかしこれまでアメリカの要求をことごとく受け入れてきた政権が譲歩を防げるといっても信用できません。
安倍政権は「TPP11」の批准を今国会に提出し、十分な審議も保障しないまま、承認させようとしています。批准を許さない国民的な運動が急速に求められます。