2018年4月17日(火)
主張
過労自殺の隠ぺい
「働き方」法案 前提が崩れてる
裁量労働制のデータねつ造に続き、裁量労働制を違法に適用していた野村不動産での男性社員の過労自殺をめぐって厚生労働省の情報隠ぺいが大問題になっています。同省は先週ようやく過労死と認定した事実を認めました。安倍晋三政権が、過労自殺を隠したまま、野村不動産に「特別指導」をした“成果”だけを発表し、“裁量制を拡大しても指導するから大丈夫”と宣伝材料に使ってきたことはいよいよ明らかです。データのねつ造や情報隠ぺいで国民を欺き続ける安倍政権に「働き方改革」一括法案をうんぬんする資格はありません。
裁量制の不都合な真実
野村不動産の問題をめぐる厚労省の対応は、都合の悪い事実はひたすら隠し、法案を通すためには事実をゆがめる安倍政権の姿勢を浮き彫りにするものです。
野村不動産の裁量労働制の違法適用が表面化したのは昨年12月、東京労働局の発表でした。同社が裁量労働制を禁じられている営業職に広く適用していたとして、特別指導を行ったと明らかにしたのです。東京労働局長が社長を呼んで直接指導するというのは異例の対応です。
安倍政権は当時、いくら働いても「みなし労働時間」分しか賃金を支払わない裁量労働制の拡大を「働き方」法案に盛り込む方針で、これに対し「過労死を増やす」と国民の反対の声が相次いでいました。しかし安倍政権は国会答弁で、野村不動産への特別指導の例を持ち出し、裁量制を拡大しても取り締まれると強弁し続けました。
ところが3月初め一部報道で、野村不動産で裁量制を違法適用された社員が過労自殺し、労災認定されていたことが判明します。安倍政権が拡大を狙う裁量労働制によって過労自殺する人が生まれたとなれば、これまでの政府の主張は成り立たなくなります。
その後1カ月以上にわたって国会で、過労自殺を知っていたのではないかと野党に厳しく追及された加藤勝信厚労相は、ようやく今月10日になって、野村不動産で過労死があり、労災認定をした事実を初めて認めました。しかし、あくまで「過労死」であって過労自殺とは認めず、裁量制の違法適用との関係も明らかにしません。
東京労働局が野村不動産に行った特別指導についての経過を示す文書を先月末国会に提出しましたが、それはほとんど黒塗りでした。厚労相が過労死を認めた後になっても、黒塗り部分を解除しようともしません。記者会見で記者をどう喝し、不適切な発言をした東京労働局長は更迭されましたが、それではすみません。隠ぺい姿勢を一向に改めようとせず、国民に説明責任を果たそうとしない厚労相、安倍政権の責任は重大です。
命を脅かす法案は廃案に
裁量制のデータねつ造で批判を浴びた安倍政権は、「働き方」法案に裁量制拡大を盛り込むことは断念したものの、法案はあくまで今国会で成立させる構えです。法案の柱である「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」は、裁量制以上に長時間労働と過労死の温床になる危険な制度です。働く者の命と健康にかかわる問題でもデータねつ造や隠ぺいを平然と行う政権の下で、「働き方」法案を議論する前提はありません。法案成立を断念し廃案にすべきです。