2018年4月21日(土)
野村不動産への特別指導
「実績」づくりのため過労自殺を隠ぺいか
野党合同ヒアリングで疑惑深まる
野村不動産に対する「特別指導」について、安倍政権が「働き方改革」一括法案を推進するため、指導実績づくりで過労自殺の事実を隠ぺいした疑いが深まっています。19日の野党合同ヒアリングで判明した同社への指導内容は、安倍首相が主張する「徹底」した指導とは程遠いものでした。(田代正則)
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ヒアリングに一部黒塗りで提出された資料は、勝田智明東京労働局長(当時)が12月25日に野村不動産の宮嶋誠一社長を呼んで行った口頭による指導内容です。
勝田局長は、「特別にお越しいただいたので、口頭で指導させていただく」と述べ、異例の口頭のみでの指導が行われました。通常の是正指導は、書面を交付し、改善結果の報告を求めることで、指導徹底を担保します。「特別指導」というには不明確なものです。
改善報告求めず
しかも、指導に沿った改善結果の報告を一切求めていないことも分かりました。
日本共産党の高橋千鶴子議員が13日の衆院厚生労働委員会で、「改善結果はどうやって確かめるのか。いいっぱなしではないのか」と追及し、山越敬一労働基準局長は、「何らかの形で報告していただく」などとあいまいな答弁に終始しました。今回のヒアリングによって、報告を課していないことが明確になりました。
安倍首相は、「野村不動産が裁量労働制を逸脱していたから特別指導した。今後とも指導を徹底する」と実績をアピールし、「定額働かせ放題」の制度を広げても、乱用が起こらないと主張(1月29日、衆院予算委員会)。加藤勝信厚労相も、高橋議員の2月20日の国会質問に「野村不動産をはじめ、しっかり監督指導している」と述べています。
しかし、ヒアリングで明らかになった野村不動産への「特別指導」の実態は、およそ「徹底」「しっかり」などといえない形だけのものでした。
長時間労働多数
指導内容から、野村不動産で違法な長時間労働がまん延していた疑いがますます深まりました。特別指導で勝田局長は、「多数の労働者について、三六(さぶろく)協定に定める時間を超えて働かせていた」と述べました。具体的な違反人数は黒塗りになっていますが、同社の三六協定では残業時間の上限を月80時間としており、長時間労働の労働者が多数いたことが明らかとなりました。
違法な長時間労働を繰り返したり、過労死を出した企業については、企業名を公表することになっています。同社では、過労自殺事件も明らかになっており、この企業名公表の基準に達している可能性が極めて高いとみられます。「特別指導」によらなくても、公表しなければならないケースだった可能性が高くなりました。
「特別指導」で勝田局長は冒頭、野村不動産の違法行為を列挙していますが、裁量労働制の違法適用以外は黒塗りにされています。裁量労働制違法適用の職場で、過労自殺がおこったことを隠すために、公表基準に基づかずに「特別指導」を行って「指導実績」だとアピールした疑いがいっそう深まりました。