2018年8月10日(金)
禁止条約背向ける首相
戦争被爆国の役割を果たさぬ政権退陣を
核兵器の非人道性を訴える被爆者の声が世界を動かし、国連で核兵器禁止条約が採択されてから1年。安倍晋三氏が広島・長崎平和式典に首相として出席するのは7度目となりますが、唯一の戦争被爆国の代表として本来の役割を何も果たしていないことが改めて示されました。
失望と怒りの声
両式典のあいさつでは「核兵器の非人道性を誰よりも深く知る」首相として、「被爆者の方々に寄り添いながら」核廃絶に向けて核兵器国と非核兵器国の「橋渡し」に努めると主張。しかし、昨年に続き核兵器禁止条約には一言も触れませんでした。被爆者との懇談では、「厳しい安全保障環境」を理由に「条約不参加の立場は変わらない」と言い放ち、失望と怒りの声が広がっています。
同条約は被爆者と核実験被害者の支援、核汚染地域の環境改善も促しており、未署名国もこれらへの援助や締約国会議のオブザーバー参加が可能です。日本政府はどのような条件なら条約に参加するのか、被爆者支援も含め一向に議論をしてない状況です。
「橋渡し」を自任しながら、非核保有国を中心に国連加盟国122カ国が賛同した核兵器禁止条約を拒否する背景には、米国の核兵器を安全保障の根幹に置く「核の傘」政策と、核大国が展開する「核抑止力」論に足並みをそろえる姿勢があります。
世界に現存する約1万5千発の核兵器の大半を有する米ロ間の関係は冷戦後「最悪」といわれ、両国ともに新型核兵器の開発と核兵器使用基準の緩和を発表。英仏も核兵器の最新鋭化を図る方針を堅持しています。いずれも周辺国や「不安定な安全保障」を理由とするものです。
「核兵器のない世界」を求める被爆者を含む市民社会と非核保有国は、核兵器禁止条約を力に大国中心の潮流を転換させようと力を尽くしています。原水爆禁止2018年世界大会に出席した代表者からもその経験と思いが語られました。
核廃絶強く訴え
同条約を推進したオーストリアのハイノッチ外務省軍縮軍備管理不拡散局長は、その意義について「世界の大多数が国家の安全保障は核兵器を持たなくても守れるとの結論に達したものだ」と指摘。赤十字国際委員会のマウラー総裁は「限定的な使用であっても、核兵器がもたらす被害に十分に対応する国際プランも能力も存在しない」と、核廃絶を強く訴えました。
韓国の平和軍縮センターのフワン・スヨン代表は、南北・米朝首脳会談を通じて「対話の偉大さを確認した」と述べ、「問題は信頼関係だったことを全世界に証明した。平和体制と非核化を達成する最も現実的な方法は、話し合いと交渉。この原則は揺るがない」と強調しました。
被爆者の平均年齢は82歳に上り、これまでに両被爆地の原爆死没者名簿に計49万3344人が記帳されました。唯一の戦争被爆国としての役割を果たす政府の誕生と「核兵器のない世界」の実現こそが、被爆者と国際社会の願いです。
(吉本博美)