2018年9月14日(金)
主張
リーマン危機10年
のど元過ぎて熱さ忘れたのか
2008年9月15日、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻、世界的な金融・経済危機の引き金を引いてから10年たちます。その後も世界各国での金融・財政危機の発生やアメリカ等で「バブル」の懸念が渦巻くなど、爪痕は癒えていません。重大なのはそれにもかかわらず、アメリカのトランプ政権や金融業界で、リーマン・ショックの際に強化された金融機関への規制を緩和する動きなどが相次いでいることです。リーマン・ショックは歴史的な重大事であり、“のど元過ぎれば熱さを忘れる”は絶対許されません。
「大恐慌」以来の経済危機
リーマン・ショックは、その前年に発生したフランスの金融大手BNPパリバの経営破綻や08年春に経営が行き詰まったアメリカの投資銀行ベア・スターンズの破綻とともに、国民の購買力を上回る住宅や自動車の生産・販売と、肥大化した金融のゆがみがもたらした金融・経済危機です。不足する所得をレバレッジ(てこ)だと言って元手の何倍も貸し付ける金融で埋め合わせ、銀行は不良債権を「サブプライムローン」として押し付け合い、商品を買った時より高く評価して新たな商品を売りつける、いびつなやり方がいつまでも続くはずがありません。パリバやリーマンの破綻がそれを裏付けました。
大手金融機関のリーマンの破綻はまたたく間にアメリカと世界に悪影響を広げ、アメリカ最大級の金融機関であるメリル・リンチやバンク・オブ・アメリカ、代表的な産業である自動車業界のGMやクライスラーをのみ込みました。各国で企業の倒産や失業が相次ぎ、日本でもリーマン・ショック直後に派遣労働者を大量に解雇する「派遣切り」が深刻になるなど、世界経済は1929年の「大恐慌」以来の不況に直面したのです。
各国政府も金融機関の規制などが課題になり、世界経済をコントールする力を失った主要資本主義国中心の「G7」や「G8」にかわって、中国やロシア、開発途上国も参加する「G20」の首脳会議が開かれ(第1回は08年11月)、金融規制の強化などを取り決めました。しかし、アメリカや日本をはじめ多くの資本主義国政府は、苦しむ国民を支援するよりも、「大きすぎてつぶせない」などと言って金融機関や自動車会社への公的資金投入や財政支援に乗り出し、危機の根本的な原因は取り除かれないまま現在に至っています。
しかも危機の震源地となったアメリカでは、トランプ政権になって金融規制の緩和が議論されています。まさに教訓を学ばない態度です。日本の財務省の財務官として当時リーマン・ショックに対応した篠原尚之氏も、最近発行した回顧録で「危機のプロセスは、今後も繰り返される」と警告します。10年経過し、“熱さを忘れる”ことなどあってはなりません。
「アベノミクス」の危険
リーマン・ショックの際、国民向けのまともな対策を取らないまま、大企業本位の景気刺激策を進めてきた日本政府に反省はありません。とりわけ安倍晋三政権は異常な金融緩和や財政支出緩和、規制緩和を拡大し、大企業や大資産家の「資産バブル」などを膨らませています。「アベノミクス」の危険はこの面でも明らかです。