2018年9月20日(木)
主張
リニア建設工事
広がる懸念、立ち止まるべきだ
2027年開業を計画するリニア中央新幹線の建設工事をめぐり、沿線の住民や自治体などから異論や不安が相次いでいるにもかかわらず、強引な推進姿勢を改めないJR東海に批判が上がっています。リニア工事が水資源に深刻な影響を及ぼすことを懸念する静岡県の意見にも、同社はまともに答えません。同計画を「国家的プロジェクト」と位置付ける安倍晋三政権はJR東海のやり方を容認しています。自然環境や住環境への打撃を危惧する声をかえりみず、巨大開発をごり押しすること自体、大問題です。リニア建設工事は凍結・中止こそ必要です。
水資源への深刻な影響
リニア中央新幹線は27年に品川(東京)―名古屋間で開業し、さらに37年に大阪までの延伸をめざしています。総事業費は9兆円にのぼり、今世紀最大の巨大開発事業といわれます。事業主体はJR東海ですが、安倍政権は財政投融資として3兆円の公的資金を投じることを決定し、事実上の「公共的」な巨大開発となっています。
品川―名古屋の8割以上にあたる区間は地下トンネルの計画です。南アルプスや中央アルプスの下を掘り進めることが貴重な自然の破壊につながり、災害も誘発させかねない危険があること、工事で発生する大量の土の処理先が決まらないこと、生活環境の悪化が想定されることなどについて沿線住民を中心に批判が広がり、国に対しリニア工事認可の取り消しを求める裁判が起こされています。
建設工事は品川や名古屋の地下駅、南アルプストンネルの一部などで着手されていますが、本格的な工事はこれからです。一方で、地元自治体とJR東海との間の矛盾の広がりも顕在化しています。その一つが、南アルプストンネル工事をめぐる静岡県の対応です。
南アルプストンネルの一部は静岡市内を流れる大井川上流部の地下を通ります。JR東海は工事で川の流量が毎秒2トン減ると予測しており流域住民の暮らしに大きな影響を与えることが明らかになっています。同社は、減った分の水は導水管とポンプなどで川に戻す対策をとるとしていますが、県側は納得していません。
同県の川勝平太知事は8月、リニア工事が南アルプスの自然環境や水資源に与える影響などを検証する「有識者会議」などを立ち上げ、その結論をもとに対応を求める姿勢です。ところがJR東海は、地元同意がなくてもトンネル工事に着工することを念頭に、準備のための宿舎工事などを今月開始しました。あまりに一方的です。疑問や不安を置き去りにして、「27年開業ありき」で建設に突き進むやり方に道理はありません。
推進は未来に禍根残す
リニア計画そのものに対する根本的な疑義は全く払しょくされていません。自然や住環境の破壊の問題だけでなく、超高速で地下を走ることなどをめぐる安全性への疑問は深まるばかりです。地震をはじめ大規模災害への備えでは、乗客の避難の仕組みをはじめ懸念の声が絶えません。人口減社会の中でリニアが事業として成り立つかどうかも議論を呼んでいます。ゼネコンが群がった談合疑惑も解明されていません。巨大開発の失敗のツケが回されるのは国民です。未来に禍根を残さないためリニア建設は中止すべきです。