2018年11月28日(水)
戦前のシステムに後戻り
漁業法改悪案 加瀬・帝京大教授の意見陳述 衆院委
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漁業法改悪案について、加瀬和俊帝京大教授が26日の衆院農林水産委員会で行った意見陳述(要旨)は次の通りです。
漁業法改定の第一の問題点は、第1条で現行法の二つの目的のうち、漁業の民主化を削除し、漁業法の目的を漁業生産力の発展だけにしたことです。地元の自然資源を地元に住み、自ら労働する漁業者が優先的に利用できるという原則を外し、資源がありながら地元漁業者はそれを利用できず、外部の企業が優先的に利用するようになる戦前型のシステムには賛成できません。
農地改革と同じ時期に実施された漁業制度改革は、地元漁業者が漁場で操業する権利と、企業が漁場を利用する権利とがぶつかった場合に、地元漁業者が優先するという原則を定めました。今回の改定で企業優先に変更するのですから、戦前のシステムに後戻りすることを意味します。
生存権奪う
漁業権の範囲は極めて狭く、1人乗りの小さな漁船で5、6分も走れば漁業権のない沖合漁場に出てしまいます。広い沖合漁場はすべて企業の参入に開かれています。せめて、現在沿岸漁業者が優先的に使用できている沿岸漁場については、地元漁業者の権利を奪うべきではありません。
就労機会の乏しい漁村で、地元資源に依拠して生活を成り立たせてきた沿岸漁業者から、生存権のもっとも確実な保障である漁業権を奪うことは何としても回避するべきです。
第二の論点は、漁業権を付与するために必要な海区漁場計画の策定プロセスがあいまいになり、有力企業と行政との癒着が必ず生じる方式になっています。また、法案の解釈に不明の点が多いのは、期限の余裕のない中で、少人数で急いでつくられたためだと思われます。
漁業と対立
最後に、新しくできる沿岸漁場管理団体にも問題があります。沿岸域全体の管理の義務と責任、権利を今回の法案の仕組みで漁協が失う中で、資源の保全、産卵場への配慮、藻場の育成、赤潮対策、レジャー等の利用との調整など漁場全体に関わる問題を解決するために設定されているものです。法案によれば申請主義で、一般社団法人も管理団体になれます。レジャー団体や、海洋開発を行う建築会社の団体がなった場合に、漁業との間で非常に大きな対立ができるような漁場管理のシステムができる可能性があります。
法案を早急に成立させるのではなく、現場の状況を十分に把握した上で、長い時間をかけて、70年という、現在の漁業法の期間に匹敵するだけの検討が必要な問題だと考えます。