2019年2月20日(水)
主張
統計不正問題
疑念と不信はますます深まる
厚生労働省の毎月勤労統計調査の偽装などに端を発した統計不正は、深刻な広がりを見せています。統計の調査方法をめぐり2015年当時の首相秘書官が厚労省側に「問題意識」を伝えた事実が明らかになり、首相官邸の関与も焦点の一つとなっています。しかし、安倍晋三政権の隠ぺい姿勢により実態解明は妨げられ、国民の疑念と不信は募るばかりです。国の統計に対する国民の信頼を大本から破壊し、国際的信用まで失墜させた大問題をごまかし続けようというのか。安倍政権は態度を改め、関連資料を全て提出し、関係者の国会招致にも応じるべきです。
首相官邸の関与も焦点
賃金実態などを示す毎月勤労統計の不正は04年から行われていましたが、始まった動機や背景、それが長期に隠され続けた要因は依然不明です。雇用保険などで2000万人以上の給付減を生んだ重大事態の究明と、責任の追及を欠かすことはできません。
厳しく問いただす必要があるのは、組織的隠ぺいの実態です。厚労省は18年1月から不正によるデータのゆがみを補正する偽装をひそかに行っていました。少なくとも17年に不正は掌握されていたとみられますが、誰にどこまで報告されていたのか謎のままです。当時の厚労省の統計責任者は国会でもまともに説明しません。経過を知る関係者の国会招致は、ますます不可欠となっています。
疑問を深めているのが、18年1月からの賃金伸び率の「上振れ」問題です。「上振れ」は、ひそかにデータ補正されたことで引き起こされた面がありますが、それだけではありません。同時に行われた調査手法の変更が、伸び率に大きな影響を与えていました。
調査手法の変更について、15年3月に中江元哉首相秘書官(現・財務省関税局長)が厚労省に「問題意識」を伝えていたことが判明し、官邸の関与が議論となっています。調査対象の事業所(従業員30~499人)を数年ごとで総入れ替えする従来の方式では、賃金の伸び率がマイナスになる月が多くなるなどしており、中江氏が「改善」を促したというのです。その後、厚労省に調査方法をめぐる検討会が設置されますが、中間整理案をまとめ、事実上立ち消えになりました。しかし、18年1月には、中江氏が問題視した総入れ替え方式は変更されました。
この間、経済財政諮問会議で麻生太郎財務相らも調査方法「改善」を迫っていました。18日の衆院予算委員会の集中審議では、中江氏も首相も調査方法について「首相の指示」を否定しましたが、解明点は少なくありません。
真相語り、責任を果たせ
注目されるのは、15年9月の参院厚生労働委員会で安倍首相が「(賃金のマイナスは)本年1月に行った調査対象事業所の入れ替えもある」(日本共産党の小池晃副委員長=当時=への答弁)と述べたことです。勤労統計調査が低く出ることが、「アベノミクス」の成果を示す上で不都合と認識していていたことは間違いありません。この首相の認識が調査方式の変更にどう影響していったのか。踏み込んだ調査と検証が必要です。
「関与」や「指示」を否定するだけでは、国民は納得できません。安倍政権には、経過と真相を全て明らかにする責任があります。