2019年3月5日(火)
勤労統計 18年賃金「急上昇」なぜ
厚労省 推計値の遡り補正を中止
統計委の承認得ず
毎月勤労統計の2018年の賃金「上昇」は、東京の大規模事業所の不正調査がひそかに補正されていたことに加え、統計方法の「変更」が重大な影響を与えていました。その一つが「ベンチマーク更新」をめぐる問題です。賃金「急上昇」の最大の要因であり、統計委員会の事前承認を得ず不正に行われた疑惑が強まっています。
企業の“国勢調査”
労働者の数や平均賃金を示す毎月勤労統計は、理想的には毎月全ての企業・事業所を調査して実数を示すことが望ましいものの、調査費用や労働力の問題、集計に時間がかかることから毎月全事業所を調査することはできません。そこで、任意に選び出された企業(サンプル抽出)の調査を行い、これをベースとして全数調査に匹敵するような統計上の処理をして推計値を出します。この全数推計を「復元」といいます。
しかし、産業構造は常に変動しており、推計値にはどうしても誤差が生じます。このもとで5年に1度、総務省が全企業を対象に経済センサス基礎調査を行い、業種・企業規模などの構成比、労働者数や賃金総額を出します。いわば企業の“国勢調査”で経済センサスとよばれます。これは実数であり、新しいセンサスが出るとこれを新たな基準(ベンチマーク)として前回のセンサスまで遡(さかのぼ)って「従来」の推計値を補正します。
統計法違反の疑い
18年の毎月勤労統計は14年センサスに基づいて計算されました(ベンチマーク更新)。前回09年の調査に比べ大企業で働く人が増えたため、賃金が押し上げられました。この点で18年の数値が上昇したこと自体は不正ではありません。
問題は、18年より前の推計値が新センサスに基づき遡って補正されなかったことです。17年の推計値に14年センサスの上振れの傾向が反映されれば、17年推計値も上方修正されます。この遡及改定をしないまま、従前の17年の推計値と新センサスに基づく18年の値を比較して「上昇率」を出せば、実際より高い上昇率となるのは当然です。本来、比較してはいけない数字を比較したのです。
ベンチマークの更新時に遡及補正することは統計上当たり前のこととされます。それを18年から突然中止したのです。しかも、統計委員会の承認を得ず厚労省の独断で。西村清彦統計委員長は18年1月からの遡及改定の中止について「知らなかった」と述べています。統計法違反の不正という重大な疑念があり、その背景に何があったのかが問われています。(中祖寅一)
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