2019年3月16日(土)
医師の命も医療も守れない
過労死ラインの2倍まで容認
厚労省案に批判 増員求める声強く
医師の長時間労働規制を議論している厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は、今月末までに報告をまとめる最終段階を迎えています。厚労省は、時間外労働について「過労死ライン」の2倍まで容認する上限案に固執し、医師の抜本的増員も行わない姿勢です。医師や過労死遺族、労働組合、医療団体から「医師の健康も安心の医療も守れない」と厳しい批判の声が上がっています。(深山直人)
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2024年4月から適用する時間外労働の上限に関して同省は、一般勤務医は、一般労働者と同じく「年960時間」(休日労働を含む)とする一方、地域医療などを担う特定の医療機関については、一般勤務医の約2倍となる「年1860時間」とし、35年度末を目標に認める方針です。
「1860時間」を1カ月に換算すると155時間。過労死ラインとされる「平均80時間」の約2倍となり、異常な長時間労働を固定化するものです。一方で、医師や医療団体などが強く求める医師の増員については一言もふれていません。
「非常識」と批判
15日に開かれた検討会でも、「非常識な水準であり、賛同できない」(連合・村上陽子総合労働局長)、「一般と同じ960時間にすべきだ」(戎初代・東京ベイ・浦安市川医療センター認定看護師)との意見が相次ぎました。
特例措置の期限についても「35年度は目標ではなく終了とすべきだ」「期限を設けないと年1860時間から下がらない恐れもある」として期限を明記するよう求める意見が噴出。報告書の決定は、来週に持ち越されました。
同省は、特例水準を認める代わりに「健康確保措置」として、(1)勤務間に9時間の休息を確保(勤務間インターバル)し連続勤務は28時間まで(2)月100時間以上となる前に医師の面接指導を受ける―としています。
しかし、連続勤務や勤務間インターバルが実施できない場合、翌月までに「代償休息」を付与すればよいとしており、「抜け穴」となりかねない内容です。
また、研修医や専門医をめざす若手医師も「年1860時間以下」まで容認するとしており、「医師不足に拍車をかける」との批判が出されています。
長時間労働を容認する同省に対し、副座長の渋谷健司・東大大学院教授が「現状維持と経営者の視点ばかりで、医師や患者の姿がない」などと抗議し、辞任する前代未聞の事態になっています。
医療費抑制政策
同省が、異常な長時間労働を押し付けようとするのは、「医療費抑制」政策で「医師は増やさない」との前提に立っているからです。
同省は、医師は2028年ごろに約35万人となり、需要と供給が均衡し、その後は余ると推計しています。
しかし、これは過労死ラインの長時間労働などを前提にしたもので見直しが必要です。日本は、経済協力開発機構(OECD)平均より10万人以上少ないのが実態です。
多くの医師や労組、医療団体をはじめ、100万人を擁する日本医学会連合などが「医師の増員」をはじめ抜本的な医療提供体制の改革を求めています。
同省が増員の代わりに掲げる「医師の業務移管」についても、人員不足の看護師への移管ではなく、「医師補助職」の導入などが提案されています。こうした声にこたえて、医師の増員も含めた抜本的な対策を検討することこそ必要です。