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2019年5月24日(金)

主張

認知症対策大綱案

安心を支える方向が見えない

 安倍晋三政権が、新しい認知症対策のたたき台となる大綱案を公表しました。政府が今後推進する政策の柱に、従来掲げてきた「共生」に加え、「予防」を位置付けました。2025年までに、70歳代で認知症になる人の割合を6%減らすなどの「数値目標」も初めて盛り込みました。一方、認知症の人や家族に経済的負担などの困難を強いている介護・医療の仕組みを改める方針は見当たりません。安倍政権は近く大綱を決定しますが、この内容では、当事者や家族にとって、本当に安心できる社会の実現につながりません。

「予防」強調に危うさ

 大綱案は、「予防を含めた認知症への備えとしての取組に重点を置く」と述べ、「予防」を盛んに強調します。予防や発症を遅らせるためのさまざまな研究や実践が重要なことは言うまでもありません。しかし、認知症の発症や進行についての仕組みの解明はいまだ不十分で、科学的根拠のある治療法・予防法も確立していないのが現実です。「予防の努力」をした人たちを含めて、認知症を発症する可能性は誰にでもあります。

 その中で、政府が「予防」を前面に打ち出すことは、大きな危険をはらみます。発症した人を「予防を怠った人」とみなす差別的風潮を広げかねないからです。認知症の人たちは「予防に取り組みながら、認知症になった人が落第者になって自信をなくしてしまう」と危ぐの声を上げています。

 「数値目標」の設定も、目標が独り歩きする恐れがあります。6年後に6%減らすなどという「数値」を追求するあまり、認知症にならないことばかりが求められ、発症した人を「社会のお荷物」扱いする偏見を助長し、生きづらくする深刻な事態を引き起こしかねません。「認知症は自己責任」という誤った考えがまん延する社会では、認知症の人の人権や尊厳は脅かされ、家族の安心も保障されません。「予防」を重点化した大綱案は見直しが不可欠です。

 「予防」強調の背景には、社会保障費を圧縮・削減したい政府の狙いがあります。昨年10月、政府の経済財政諮問会議で、認知症の「社会的コストは2030年に21兆円超と見込まれる」ことなどが議論になり、厚生労働省の施策では“予防が弱い”ことが問題視される一幕もありました。その後に内閣官房が取り仕切る認知症対策の関係閣僚会議が設置され、今回の大綱案づくりが加速した経過があります。社会保障費をカットする手段として「認知症予防」を持ち出すようなやり方は、国民の願いと相いれません。

介護と医療の拡充策こそ

 認知症の人や家族が切実に求めているのは、安心して使いやすく、きめ細かな介護と医療の仕組みです。認知症では初期段階での気づき、早期の対応や治療がなにより重要なのに、この間安倍政権が強行した「軽度者」を中心とする介護保険改悪などがそれを妨げています。ヘルパーの生活援助の利用制限は、認知症の人を支える上で重大な障害です。介護利用料や医療費の負担増は本人・家族に重くのしかかっています。介護・医療改悪を中止することをはじめ、負担と困難を軽減する施策が強く求められます。認知症の人と家族の願いに真に寄り添う対策を進めることが政府の責任です。


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