2019年5月30日(木)
主張
国有林野法改定案
国民の共有財産の荒廃許すな
国有林の大規模伐採を民間業者に長期間、委託することを可能にする国有林野管理経営法改定案について、安倍晋三政権が参院で採決・成立の動きを強めています。指定した国有林の樹木を伐採する権利を民間業者に与える一方、伐採後の再造林や森林育成の義務を課さない同改定案には、「国有林の荒廃につながる」と批判が相次いでいます。中小業者より大手が有利な仕組みであることなど、論点は尽きません。国民の共有財産である国有林の将来にかかわる法案を拙速な審議で強行することは許されません。
森林再生への責任負わず
安倍晋三政権は昨年、小規模な森林所有者に替わって、営利企業に伐採などの権利を与える森林経営管理法の成立を強行しました。今回の国有林野管理経営法の改定はそれに続く流れです。
伐期を迎えた国有林を、「長期間、担い手に国有林の伐採・植林を委ねることで、安定した事業を可能とする」(今年1月の安倍首相の施政方針演説)などと、さかんに強調します。しかし法案は、林業の再生につながらないばかりか、大規模な伐採業者や一部の営利企業が、木材伐採のために国有林を長期にわたり独占的に利用できることに道を開くものです。
現在、国有林での伐採は、ほぼ1~数年ごとに事業者を入札で決めています。造林は伐採とは別の事業者が行うことが原則になっています。伐採規模も1カ所あたり数ヘクタール程度としています。
改定案は、これらの制限や制約を取りはらうことが狙いです。戦後の植林が伐期を迎え利益が出そうな国有林を「樹木採取区」に指定し、同区域では、すべての樹木をとることを可能にする「樹木採取権」を伐採業者に与えます。指定する区域の面積は、数百ヘクタールまで認める方針です。採取権の期間は最長50年まで可能にします。
事業者に国有林の大規模な伐採を長期間委ねる一方、森林保全を保障する内容は極めて貧弱です。
とりわけ、現行では伐採と別事業として入札・委託を行っている再造林を、同じ伐採業者に申し入れることができるという方針は大問題です。改定案では政府が伐採業者に再造林を「一体的に行うよう申し入れる」だけで、罰則規定もなく、伐採業者に再造林・森林再生の責任を負わせる規定がないからです。
再造林や育成事業は経費も手間もかかります。伐採した木の価格次第では、業者が撤退し、山が荒れ果てる危険も否めません。
安い国産材を求めている大手木材メーカーや、大規模なバイオマス(生物資源)発電会社への国有林払い下げにつながる、という懸念も強まっています。
将来に禍根残さぬために
森林には水源を育てる涵養(かんよう)や災害の防止、生物多様性の保全などの公益的な機能、さらには中山間地域の振興という多面的な役割があります。全国の森林の3割を占めているのが国有林です。
今回の改定案に学者や地方自治体から反対の声があがっており、「国有林は、公益的機能を一層発揮しつつ『国民の共有財産』として管理経営されるべきもの」(学者・研究者らでつくる「考える会」の声明)と強調しています。こうした声を無視して法案を強行することは将来に禍根を残します。