2019年6月3日(月)
陸上イージス 巨大な要塞
配備は百害あって一利なし
軍事攻撃の標的に 基地拡張、風車移転 日本でなく米防衛
防衛省は5月27~28日にかけて、北朝鮮の弾道ミサイルを想定した陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」について、秋田県秋田市の新屋演習場、山口県萩市のむつみ演習場を「適地」だと通告しました。しかし、いずれも多くの住民が暮らす地域に接しており、「どこが適地なのか」との声が相次いでいます。
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イージス・アショアとは、地上に設置した高性能レーダーで弾道ミサイルを捉え、迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムです。
防衛省の説明資料によれば、イージス・アショア配備に伴い、(1)レーダー施設(2)火薬庫(3)ミサイル垂直発射装置(VLS)(4)隊庁舎(5)整備場(6)倉庫―といった施設を建設。さらに(1)弾道ミサイル防護隊(2)警備部隊(3)対空防護部隊―など計250人が配備されます。
SM3ブロックIIAなど迎撃ミサイルは、弾道ミサイルが同時に発射される「飽和攻撃」に対処するためとして、20基以上は配備されるとみられます。まさに巨大な軍事要塞です。
また、地上に固定されるイージス・アショアはテロや武力攻撃の標的になるため、軽装甲機動車や短距離地対空誘導弾などを配備し、平時から物々しい警備体制が敷かれます。「事態緊迫時」には戦闘機や護衛艦なども動員されます。
イージス・アショアが配備されたら、周辺地域が軍事攻撃にさらされる危険が飛躍的に高まることを認めたものです。こうした事態に対処するための訓練も想定されるため、騒音など住民への影響は避けられません。
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新屋演習場周辺には民間の風力発電施設があり、多数の風車が設置されています。防衛省は、一部の風車がレーダーと隣接し、障害となるため、秋田県と企業に移転を要請する意向を表明。さらに、レーダーとVLSの保安距離はそれぞれ半径230メートル、250メートルと設定。一部は区域外にかかるため、県有地を取得して演習場を拡張。県道の付け替えも想定しています。県有地の処分は議会の議決が必要となるため、紛糾も予想されます。
内陸部にあるむつみ演習場では、迎撃ミサイルの発射後、切り離されたブースターが民家近くに落下する設定となっており、住民の不安が高まっています。演習場に隣接する阿武町は「町の存亡に関わる危機」と声をあげ、有権者の過半数がイージス・アショアに反対する「町民の会」に参加しています。
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防衛省は「北朝鮮の核・ミサイル能力に本質的な変化は生じていない」として、配備の「必要性」を強調します。しかし、実際に運用可能となるのは2025年以降で、その時点で弾道ミサイルの進化に遅れをとり、「陳腐化」は必至です。
そもそも、イージス・アショアは「日本防衛」ではなく、日本上空を超えて米領グアムなどに向かう弾道ミサイルの迎撃を想定したものです。さらに言えば、米軍需産業の利益のために「トランプ大統領に押し付けられて購入する状態」(飯島勲内閣官房参与)というのが真相です。導入経費は6000億円以上とみられています。
そのトランプ政権は北朝鮮の核・ミサイル問題について、対話による解決を継続する意向を示しており、日本ははしごを外された形になっています。イージス・アショアは、まさに百害あって一利なしです。(竹下岳)
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