2019年6月12日(水)
ビキニ核被災の「政治決着」
政府、戦犯釈放で取引
補償は限定、公文書に明記
米国が太平洋ビキニ環礁などで1954年に強行した水爆実験で第五福竜丸をはじめ日本のマグロ船乗組員が被ばくした「ビキニ核被災事件」。汚染マグロ船の入港が続いていたにもかかわらず55年1月に突如、米側が「見舞金」200万ドルを日本側に支払うことで「政治決着」しました。これに関して、当時の日本政府が「大規模な戦犯の解放と仮釈放」を取引材料にしながら、廃棄した汚染マグロの値など経済的損害だけに限定して決着させたことを示す日本側の公文書が見つかりました。(阿部活士)
戦争を拡大した東条内閣の外相でA級戦犯(禁錮7年)の重光葵(まもる)外相とアリソン米大使の会談に関する文書です。歴史研究者で名古屋大学大学院法学研究科研究員の高橋博子さんが、外務省に情報公開請求をして、2018年10月に開示されました。
文書は、「政治決着」直前の1954年12月27日、重光外相からアリソン氏に渡されたメモです。「この資料は日本政府が緊急で早めの解決を要すると考えられる問題のリスト」だと紹介。「ビキニ補償問題の解決」などとともに「大規模な戦犯の解放と仮釈放」として、「この問題を解決することで、米国政府の役割に対して日本の人々に好意的な態度をとらせ、ほかの政府の関心事である行動の面で、われわれの関係改善に向けて実質的に貢献するであろう」と結んでいます。
ビキニ被災問題にかかわる新たな日本側文書の発見は、国を被告にビキニ被災資料の開示を求めた「ビキニ国賠訴訟」の高知地裁判決(同年7月)の後のものです。司法さえないがしろにして、事件の実相を示す公文書を隠し続ける安倍政権と歴代自民党政権の隠ぺい体質の根深さを示しています。ビキニ国賠訴訟控訴審(高松高裁)での公平な審理がますます注目されます。
日本政府の責任は当時も現在も重大
文書を開示させた高橋さんの話 米国側の戦犯追及姿勢をさらに解除させる政治的思惑のために、ビキニ被災問題を使ったということです。日本国内には「慰謝料」として説明しながら米側が払った「見舞金」は経済的損失への補てんが主です。核被災によって生身の人間が被害をうけているにもかかわらず、米国の核実験を支持し、被害者を拡大させ、いまもって放置してきました。加害者の米国と一緒になって核実験の人体への影響を無視してきた日本政府の責任は、当時も現在も重大です。
ビキニ水爆被災問題とは、経済問題でなく、計り知れない人数の人命にかかわる深刻な影響をもたらす人道上の問題です。被害者をないがしろにしてきた事実が判明してもなお「継続的不法行為」を続ける行政府にたいし、三権分立が日本でも機能したといえる判断を示してほしい。人間のための、人命のための判決が必要です。
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