2019年6月18日(火)
秋田・山口 「米国防衛」の「適地」
陸上イージス配備先 専門家が指摘
ハワイ・グアム射程の直下
やはり「アメリカありき」だった―。陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備をめぐり、防衛省は陸上自衛隊新屋(あらや)演習場(秋田市)、むつみ演習場(山口県萩市)を「適地」としました。しかし、とりわけ新屋に関しては、データの誤りや二転三転する説明(別項)で、「適地」とする根拠が崩壊。それでも防衛省が「新屋ありき」の立場を変えないのは、「米国防衛」のための「適地」だからという可能性が指摘されています。
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秋田大学工学資源学部の福留高明元准教授は昨年8月、北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射基地があるとみられる舞水端里(ムスダンリ)と山口・萩、さらに米軍基地が置かれるグアム、ハワイの地理的位置関係を分析した記事を自身のフェイスブックに投稿。舞水端里を中心とした地図を「正射方位図法」で描くと、ミサイルの大円軌道(最短コース)が直線で表現され、秋田・萩両市は舞水端里と米ハワイ・グアムを結ぶ直線(大円軌道)の直下に位置するとしています。福留氏は、発射地点が西海岸の東倉里(トンチャンリ)に移ってもほとんど条件は同じだとしています。
福留氏は最近の投稿で、「秋田市と萩市という2地点にこだわるのは、『我が国を防御する観点から』ではなく、やはり、同盟国を防御することの目的ゆえと言わざるをえない。国内配備の要否というこの本質的課題へ、議論をいま一度戻してみる必要があろう」と指摘しています。
イージス・アショアは「米国防衛」のため―。これは単なる推論ではありません。すでに米政府や米軍、政府系シンクタンクからこうした発言が繰り返し、あけすけに示されています。
米朝対話で根拠崩壊
「日本はTHAAD(高高度防衛ミサイル)かイージス・アショア、あるいは両方の導入を決断すべきだ」「日本がこれらを購入すれば、われわれが配備しなくてすむ」。2017年4月27日、米太平洋軍のハリス司令官(当時)は米上院軍事委員会でこう証言しました。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権が米国を標的にした核兵器や長距離弾道ミサイル、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を急速に進め、米軍が西太平洋地域で「ミサイル防衛」網を強化していた最中の発言です。日本がイージス・アショアなどを導入すれば、米軍の負担軽減になる―。あまりに露骨かつ正直な発言と言えます。
その直後の同年8月、日本政府はイージス・アショア導入を正式に表明。秋田・山口両県への配備検討に着手しました。
米国負担軽減
また、ハリス氏は昨年2月24日の米下院軍事委員会で、日本のイージス・アショア導入で「米海軍がBMD(弾道ミサイル防衛)の任務で直面している負荷の一部を軽減し、艦船を他の場所へ投入することができる」と証言。「他の場所」として「南シナ海、インド洋、フィリピン海など必要があればどこへでも」と答えています。
さらに、米戦略国際問題研究所(CSIS)の昨年5月の報告書は、「(日本の)イージス・アショアはハワイやグアム、米本土東海岸といった死活的な地域や戦略的な港湾・基地を防護することができる」と指摘。「米国防衛」の狙いをあけすけに語っており、福留氏の推論と一致します。
費用6000億円も
しかし、昨年6月の米朝首脳会談を前後した対話の流れで、こうした前提は崩れつつあります。北朝鮮は17年秋以降、核実験や弾道ミサイルの発射を停止。今年5月、日本海方向に複数の短距離弾道ミサイルを発射しましたが、日本やグアム、ハワイに到達する中長距離弾道ミサイルは発射していません。
日本周辺に展開する米第7艦隊や海上自衛隊もすでに24時間態勢の警戒・監視を解いています。「イージス艦の負担軽減のため」という防衛省の説明はもはや成り立ちません。
イージス・アショア導入は「日本防衛」ではなく「米国防衛」のため。しかも「米国防衛」の必要性自体が消えつつある今、6000億円もの巨額な費用を投じて導入する必要は何らありません。(竹下岳)