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2019年7月14日(日)

失うだけの日米貿易交渉

安倍首相 参院選後へひた隠す

 安倍晋三首相は参院選の応援演説で、トランプ米大統領との親密さを誇示し、「シンゾウ、分かった。その通りにするよ」と耳を傾けてくれると吹聴しています。しかし、この2人が日米貿易交渉で何を話し合っているかは、全く明らかにされていません。参院選での争点隠しの意図は明らかです。国民に隠して交渉を進め、合意を国民に押し付けることは許されません。(北川俊文)


「日本は農産物を大量に買う」

トランプ大統領、米国内でPR

 日米貿易交渉の見通しについて、トランプ大統領は5月末の訪日の際、「8月に良い発表ができると思う」と語りました。同時に、ツイッターに「日本との交渉で大きな進展。特に、農業や牛肉で。大部分は7月の日本の選挙の後まで待つ。大きな数字を期待している」と書きました。

「参院選後」で一致

 安倍首相の4月末の訪米の際、トランプ大統領は、5月末の訪日前か訪日中の合意を示唆していました。しかし、参院選への影響を恐れる安倍首相の意向で、参院選後とすることに同意したとされます。交渉を直接担当する茂木敏充経済再生相も、「参院選後に早期の成果を目指すことではもともと一致している」と認めています。

 とはいえ、トランプ大統領は、国内世論に向けては“実績”を誇示しようとします。5月末の訪日から帰国して間もない6月11日、農業州であるアイオワ州で演説しました。

 「日本は先日、『米国の農家から大量の農産物を買う』と言った」

 「ごく最近、規制を撤廃し、米国産牛肉の日本輸出を年2億ドル増やすという合意に達した」

 日本との交渉で、米国は自動車と農産物を優先しています。

 貿易赤字を嫌悪するトランプ大統領は、対日赤字の8割を自動車分野が占めていることを重視。安全保障に影響があるとし、追加関税を脅しに使い、目に見える“成果”を上げようとしています。

日本側の説明否定

 農産物分野では、米国が環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、米国を除く11カ国のTPP11が発効したため、米国産農産物の対日輸出条件が不利になっています。農業関連業界の不満が噴出しており、トランプ政権は不利な条件の早期挽回を迫られています。

 安倍政権は、農産物で譲歩できる限度はTPP水準であり、米国もそれに同意していると説明してきました。しかし、トランプ大統領は4月の首脳会談では、「日本は非常に巨額の関税を農産品に課している」と述べ、「その関税を撤廃したい」とTPPを超える農産物関税撤廃を求めました。また、5月の首脳会談の後の共同記者会見でも、日米貿易協定交渉で「TPPには縛られない」と断言。TPP水準が限度だとする日本政府の説明をいとも簡単に否定しました。

 安倍首相とトランプ大統領が進める日米貿易交渉は、TPP水準をも超えて、日本の農産物市場を米国に差し出す危険なものです。

日米貿易協定交渉の経緯

●2018年

  9月26日 首脳会談

      (貿易協定交渉開始で合意)

 11月30日 首脳会談

●2019年

  4月15~16日 交渉開始・閣僚協議

  4月26日 首脳会談

      (トランプ大統領「5月署名」)

  5月25日 閣僚協議

  5月27日 首脳会談

      (トランプ大統領「8月発表」)

  6月10~11日 局長協議

  6月13日 閣僚協議

  6月28日 首脳会談

  7月21日 参院選投開票

      (「参院選後に早期の成果」)

●2020年

 11月(?) 米大統領選挙一般投票


写真

関税削減「TPP超え」確実

東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん

 日本政府は7月の選挙が終わるまで、国内向けには「譲らない」といっておこうともくろんでいました。しかし、「7月の選挙が終われば、8月にいい話が出てくる」と、トランプ大統領にツイッターで「密約」をばらされてしまいました。

 大統領選前に米国議会が手続きを完了するには、スケジュール的に8月がリミットだといわれています。米国が8月にこだわるのには理由があります。

 そもそも、「TPP水準堅持」の日米FTA(自由貿易協定)はあり得ません。米国の「失地回復」のためには、TPP11諸国と同じスピードの農産物関税削減では、遅れが取り戻せません。日米FTAでは、発効時点で少なくともTPP11諸国との差がなくなるように、関税削減スケジュールが前倒しされる「TPP超え」は間違いありません。

 TPPで米国を含めて設定したバター・脱脂粉乳の輸入枠7万トン(生乳換算)を、TPP11で米国が抜けてもそのまま適用したため、オーストラリアやニュージーランドは大喜びです。これに、日米FTAで米国分が「二重」に加われば、全体としてTPP水準を超えることも初めから明らかです。TPP11合意に含めた米国分を削除するなど不可能に近いのですから、日米FTAで米国になにがしかの乳製品枠を設定した時点で、「TPP水準にとどまる」ことはあり得ないのです。

 自動車の追加関税、輸出数量制限、「為替条項」で脅される中、自動車を所管する官庁は、何を犠牲にしてでも業界(天下り先)の利益を守ろうとします。自動車を「人質」にとられて、国民の命を守るための食料が格好の「いけにえ」にされようとしています。

 しかも、農や食を差し出しても、自動車への配慮につながることはありません。米国はTPPで約束した、普通自動車関税2・5%の撤廃(25年後)、大型車の25%の撤廃(30年後)も「なかったことにする」と通告してきています。

 今回の日米FTAほど、あからさまな「失うだけの交渉」もめずらしい。


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