2019年8月5日(月)
リニア残土 微量ウラン
JR東海 公表せず
岐阜 日吉トンネル工事
JR東海が進めるリニア中央新幹線建設工事の日吉トンネル南垣外工区(岐阜県瑞浪市)で残土から複数回、放射性物質である微量のウランが検出されていたことが分かりました。この地域には日本最大のウラン鉱床が広がっています。トンネル掘削には住民から不安の声が相次いでいましたが、同社は公表していませんでした。専門家は、住民の信頼を得るためには公表が必要と指摘しています。(丹田智之)
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本紙が岐阜県から情報公開請求で入手した資料によると、2018年5月30日に同工区の残土から1グラムあたり5・3マイクログラムのウランが検出されていました。同年6月5日にも1グラムあたり5・0マイクログラムのウランが出ています。資料は同年5月30日から7月10日までの計量証明書で、以後は公開されていません。
いずれも検出されたウランは微量で、JR東海が定めた管理上の基準「1グラムあたり77マイクログラム」(放射能量1ベクレルに相当)を下回っています。付近の残土置き場に搬出し、同社は「管理値を超えるウラン含有土は発生していない」として公表していません。
瑞浪市を含む岐阜県の東濃地域は日本で数少ないウラン鉱床があります。天然のウランを加工すれば、原発の核燃料になります。
同社は「鉱床を回避しているので、ウランに関する問題は発生しない」と説明し、工事を進めてきました。
日吉トンネルのルート付近に住む男性(85)=瑞浪市=は「トンネルを掘り進めているうちに、どこかで鉱床に当たるのではないか。(ウラン対策について)住民は何も知らされていません。工事は進めるべきではない」と憤ります。
旧通商産業省地質調査所で東濃のウラン鉱床を調査した元日本環境学会副会長の坂巻幸雄さんは「工事で出たウランは微々たる量だと言えます。しかし、工事に関する情報は細かいことまで自治体と住民に伝えてこそ信頼は生まれるものです」と話しています。
ウラン出土の危険 着工前に指摘も
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岐阜県の東濃地域は、天然の重金属類が豊富な地質として知られています。同地域を横断するリニア中央新幹線の日吉トンネル南垣外工区(瑞浪市)では、環境基準を超える有害物質のヒ素やフッ素に加え、放射性物質のウランを含む残土も発生していました。
「ウランについては、私たちが調査した範囲では問題ないだろうということで、出ることを前提にしていません」
着工前の2014年1月30日、岐阜県庁で開かれたリニアの環境影響評価審査会で、出席したJR東海の担当者はそう言い切りました。
ある委員は「現場で工事を始めて、本当にウランが出てきたらどうするのか」と厳しく指摘。別の委員は「私は反対。ここは掘るべきではない」との意見を表明しましたが、JRの担当者は「必要に応じて対策していく」と繰り返しました。
天然ウランが日本で採掘されていた場所は、主に東濃と人形峠(岡山・鳥取両県)の2カ所です。旧動力炉・核燃料開発事業団の『動燃30年史』(1998年)によると「日本国内における地域別埋蔵ウラン量」(88年3月末)は人形峠の1945トンに対し、東濃は4590トンと突出しています。
JR東海 処分場所・方法もあいまいなまま
ウランを含む残土が発生した場合の対応を指摘した日本共産党の本村伸子衆院議員の質問(16年3月30日、国土交通委)に対し、国交省の藤田耕三鉄道局長(当時)は「放射線量やウランの濃度を含む地質の状況把握の結果については、(JR東海が)県や関係市町に報告し、工事説明会などで地元の方々に説明していく」と答弁しています。
JR東海は、高濃度のウラン含有土が発生した場合は「通常の残土置き場には搬入しない」(広報部)としています。しかし、最終処分の場所や方法について聞くと「専門家に相談の上、関係機関と協議して決定する」と、あいまいな回答でした。
日本原子力研究開発機構の東濃地科学センター地層科学研究部の笹尾英嗣部長は「1グラムあたり1ベクレル以下ということであれば、環境や人体への影響はない」と述べた上で、こう指摘します。
「ウランは限られた場所の特定の地層に分布しています。過去の周辺の調査結果から日吉トンネルのルート上に大規模なウラン鉱床はないと言えますが、小規模な鉱床がある可能性は否定できない」
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