2019年8月9日(金)
最賃「目安」 現行制度の矛盾露呈
地域格差拡大 暮らせぬ水準
時給1500円速やかに 全国一律制創設こそ
最低賃金の改定について、政府の中央最低賃金審議会が示した「目安」を受けて地方の最賃審議会で改定額が決められつつあります。目安を上回る県もある一方で、全体としては低額に抑えつけられています。生活の実態を見ない目安を出して都道府県ごとにばらばらに決める現行制度の行き詰まりが浮き彫りとなっています。
(唐沢俊治、深山直人)
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都道府県をA~Dまで4ランクに分けた国の目安は、労働者数を考慮した全国加重平均で時給を27円引き上げ、全国平均で901円となりました。しかし、平均を上回るのは7都府県のみ。40県が平均を下回り、うち17県は700円台にとどまりました。
最高は東京の時間額1013円、最低は鹿児島の787円で、226円もの格差です。現在224円の格差がさらに広がり、年収にすると45万円もの違いが出るものでした。
鹿児島県の審議会では目安より3円引き上げ790円となりました。それでも200円以上の差があり、沖縄県などと並んで依然としてもっとも低い最賃となる見込みです。
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国の目安が重しとなって、地方の審議会でも低額に押さえつけられています。
ペース変わらず
参院選で安倍首相は、「毎年3%のペースで引き上げている」と強調。「骨太方針」で「全国加重平均1000円」を「より早期に」と明記し、地域間格差への「配慮」も打ち出したと売り込んでいました。しかし、目安の引き上げ率は3・09%と従来ペースにとどまり、格差は是正どころか逆に拡大しました。
最賃を時間額で示すようになった2002年に最大で104円あった格差は年々拡大しており、鹿児島が時給1000円になるのは、10年近くも先です。
しかも、1000円になっても、フルタイムで働いても年収180万円にしかならず、「ワーキングプア」のままです。
最賃法が求める生計費の水準―健康で文化的な最低限度の生活を営むことができる水準となっているのかが問われます。
差はない生計費
全労連は今年、山口県、京都府、鹿児島県、長崎県で労働者の「最低生計費試算」の調査結果を発表しました。これまでに19道府県で試算を発表していますが、全国どこでも生計費に大きな差がなく、月約22万~24万円、時間額で1400~1500円程度が必要であることが分かりました。(別表)
今回の目安では、北海道など「Cランク」の14道県と、鹿児島など「Dランク」の16県は同額の26円となりました。地域格差への批判を無視できなかった反映ですが、各県ごとにばらばらに決める現行制度の矛盾が際立っています。
全労連の野村幸裕事務局長は「地域間格差を前提とした現行のシステムでは、『8時間働けば人間らしく暮らせる賃金』には届かず、大幅引き上げと地域間格差は解消できない」と強調します。
日本共産党は参院選で、直ちに全国どこでも1000円とするとともに、速やかに1500円に引き上げ、「全国一律最賃制度」を創設することを主張しました。
全国一律最賃制は、自民党の中にも導入を求める議員連盟がつくられ、全国知事会もランク制の廃止と全国一律最賃制の実現を提言しています。
野村氏は「生計費に基づき、すべての働く人に人間らしい最低限の生活を保障する全国一律最低賃金制度の実現こそ求められています」と訴えています。
地域から声あげる
愛媛労連青年部・稲葉美奈子事務局長(35)の話 愛媛県では、「目安」通り790円の答申が出されました。最高の東京都と223円の差で、現在の221円から格差が広がることになります。最賃の大幅引き上げと、地域間格差を是正して全国一律制度をつくるよう訴えてきましたが、私たちが求めている最賃とはほど遠く、地域間格差を容認したままの「目安」と答申に抗議したい。
「Cランク」と「Dランク」は今回、同じ上げ幅となりました。四つのランクに分ける必要性がないことを示すようなものです。
年末年始もお盆休みもなく、ダブルワーク、トリプルワークで長時間働かざるを得ない青年たちがいます。他県から来た派遣社員の30代の女性は、賃金の低さに驚き「生活が厳しい」と訴えています。地域別最賃が、地方から都市部への人口流出に加担していると言わざるをえません。
「目安」は、「目安」以上に引き上げようとする地方の重しになっていますが、これまでそれをはねのけて上積みを勝ち取ってきました。
大幅引き上げ、格差解消に向けて、地域から運動と世論を広げていきます。