2019年8月27日(火)
貿易交渉 基本合意
日米 やはり“TPP超え”
牛・豚肉の関税削減 一挙に推進
余剰の米トウモロコシ大量購入
日米両政府が25日、基本合意した新たな日米貿易協定は、農産物、工業製品、電子商取引を含むとされるものの、詳細は明らかにされていません。しかし、伝えられるだけでも、環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、不利になった対日貿易条件を挽回しようと焦る米国の求めに応じ、米国を利するだけのものになったといえます。(北川俊文)
■失うだけの交渉
日米両政府は4月の交渉開始以来、7月の参院選への影響を避けようと、国民にはだんまりを決め込んできました。
しかし、参院選終了後は、来年の選挙で再選を目指すトランプ大統領の実績づくりに協力するため、交渉の速度を上げ、基本合意に至りました。安倍晋三首相は、9月末にも日米貿易協定に署名する意向です。
内容を隠しつつ結論を急いだ交渉は、交渉過程で、東京大学大学院の鈴木宣弘教授が本紙で指摘した通り、「失うだけの交渉」となりました。
■実態隠す言い分
農産物に関し、日本政府は、市場開放をTPP水準にとどめたとしています。TPPはもともと、農業への打撃が大きく、仮にTPP水準でも、大問題です。
にもかかわらず、TPP水準だとする政府の言い分は、実態を覆い隠すものです。
TPPによると、牛肉の関税は、38・5%を段階的に削減し、最終的に9%まで引き下げます。豚肉は、高価格品は4・3%を段階的に削減し、最終的に撤廃します。低価格品は、1キロ当たり482円を段階的に50円まで削減します。
同時に、昨年12月30日発効したTPP(11カ国)に参加している国と比べ、米国が「劣後しない」(茂木敏充経済再生担当相)ようにするとしています。それには、TPP参加国に対して段階的に実施した関税削減を、米国に対しては一挙に行うことになります。この関税削減の速度は、TPP水準を超えるものとなります。
牛肉に関し、輸入が規定量に達した場合に発動するセーフガード(緊急輸入制限)を設けるとされます。しかし、TPPのセーフガードの規定量に、米国のTPP離脱前に決めた米国分が含まれています。TPPから米国分を除かず、新たにセーフガードを設定すると、規定量が増え、セーフガードの発動が困難になります。米国分を除くには、今後、TPP参加国の同意を得る必要があります。
■自動車関税維持
工業品では、米国が幅広い品目で関税撤廃に応じたとされます。しかし、その具体的内容は、明らかにされていません。ただ、米議会の承認を必要としない範囲とも伝えられており、ごく小規模なものとみられます。
他方、米国が離脱したTPPでは、米国は自動車の関税削減を約束していました。普通車は、2・5%の関税を協定発効15年後に削減開始、25年後に撤廃。大型車では、25%の関税を29年間据え置き、30年後に撤廃となっていました。しかし、今回、この極めて息の長い関税削減さえ合意から外されました。これも、米国が一方的に有利になるという意味では、TPP超えといえます。
米国は、安全保障を理由にして、輸入車に25%の追加関税を課すことを検討しているとし、交渉の圧力にしてきました。日本政府は、追加関税の回避に腐心しましたが、今後とも、追加関税を発動しないという確約はありません。
■摩擦の尻ぬぐい
安倍首相は日米首脳会談で、米国産飼料用トウモロコシについて、日本の民間企業による250万トン規模の購入計画を説明しました。トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で、次のように述べて歓迎しました。
「中国が約束を実行しなかったために、わが国のいたるところでトウモロコシが余っている。安倍首相は、このトウモロコシを全て買い上げてくれることになった」
米中貿易摩擦の激化で、米国産穀物の対中輸出が滞り、農業関連産業から不満が出ています。それを日本が購入し、不満の解消を手助けするわけで、米中摩擦の尻ぬぐいにほかなりません。