2019年9月7日(土)
きょうの潮流
〈いつの時代もそうだった/戦争に反対して詩人たちが集まって/いったい何ができただろう/言葉にわずかな命を吹き込むこと以外に――〉(上手宰〈かみて・おさむ〉「詩人の声が裏返る」から)▼この夏もまた詩人会議主催「平和のつどい」が開かれました(8月31日、東京文化会館)。1977年から今年で43回目。詩を愛する人たちが集い、日常のいとおしさや小さな命への慈しみ、戦争の記憶、国家への抗議、未来の展望などをうたった詩を朗読し、分かち合います▼今回は「時代と詩」と題して、今年、三好達治賞を受賞した上手宰さんと、小熊秀雄賞を受賞した柴田三吉さんの対談も行われました。「詩は人間に命令するものではなく、愛されることによって読んだ人の心に住みつくもの」と上手さん。「詩は処方箋ではないが、現実の奥にある病理を見極め、理想や希望を語ることはできる」と柴田さん▼戦意高揚のための戦争詩が盛んに流布された時代を振り返り、人の精神を支配し利用する詩は文学の対極にあるもので、道具化した言葉は命を失うと強調しました。詩は想像力と思考、感情を喚起するものではないのか、と▼柴田さんの新詩集『旅の文法』は福島、沖縄、韓国の旅から生まれたと言います。〈ああ この街の人びとは/苦難の時代をそうして生きのびたように/地の底から ゆっくりと/地上に戻っていくのだ〉(「ソウルの地下鉄」から)▼喜びや痛みを共有する言葉、人をつなぐ言葉が響くひとときは、平和のかたちそのものでした。