2019年9月29日(日)
文化脅かす消費税10%
劇団関係者から悲鳴
消費税の10%への増税で劇団の深刻な経営困難が懸念されています。俳優らの生活がひっ迫するだけでなく、観客の足を芝居から遠ざける恐れもあります。国民の文化を享受する権利を脅かす―。現場の声を聞きました。(鎌田有希)
使用料上がり経営圧迫
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演劇のチケットは、一人5000円から1万円と高額なのが一般的です。一つの公演を行うのにかかる費用は数千万円に上るうえ、日本の場合、公的助成も乏しいからです。
なかでも劇場使用料(表参照)や大道具、大道具などを保管する倉庫にかかる経費は大きい。劇団関係者によると、東京で劇場を借りる場合、客席数500席規模で10日間の上演に400万円から450万円ほどかかります。季節ごとに公演すれば、年に最低2000万円必要です。2%の増税で使用料だけで40万円の負担増です。
かつらへの出費も少なくないと言います。例えば時代劇で使用するかつらの1日の使用料は1枚あたり3万円から4万円で、出演者10人で20日間使用すると600万円。増税で12万円負担が増えます。
出演減る不安ぬぐえず
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青年劇場に所属する若手俳優の小泉美果さん(29)は福祉関係のバイトで、多い時は月十数万円を得ています。「シフトを増やせば生活は安定しますが、その分、俳優修業の時間が減る…。同業だった夫は俳優をやめて、舞台設営の会社に就職しました」
同じ劇団の中津原知恵さん(31)は「公演のたびに必ず舞台に立てるわけではないし、生活のために飲食店のバイトを転々としています。出演を考えると、長期間のバイトはしにくい」と苦笑します。
「生活不安もありますが、将来的には増税で劇団経営が大変になって出演機会が減ることへの不安がぬぐえません。前回の増税でチケット代を150円値上げした時、お客さんから『高いね』って言われました。チケット代が値上げされると売り上げに響くかもしれません」
地方公演は減少の恐れ
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劇団経営の下支えをするのが地方公演です。鑑賞団体・学校などが主催者として上演料を負担します。移動、宿泊の経費を含めた上演料で契約される場合もあり、どの劇団も経費はできるだけ抑えたいところです。
地方ではバス移動が効率的だといわれていますが、近年、バスのチャーター料金が値上がりし、長距離になると4倍から5倍にも。2%増税分はかなりの額になり、劇団の制作者を悩ませています。
日本劇団協議会理事の田辺素子さんは「増税の影響で地方公演は減少するかもしれない」と言います。
「今でも学校主催の公演などは、消費税込みの上演料で契約されることが増えています。消費税分を劇団が負担する、実質的な上演料の値下げです。この流れは増税で加速するでしょう。経費の値上がりに増税分が加わり、転嫁できずに劇団の負担が大きくなる。そうなると稽古日数を減らす、大道具はシンプルにして出演者数も最小限にするなど、演目も限られてくるかもしれませんね」
国民の鑑賞の機会奪う
田辺さんは「創作の上で妥協したくはありませんが、現実から目を背けることも難しくて…。経済効率重視の傾向は、増税で今後ますます拍車がかかりそう」と懸念します。
「地方公演は全国に舞台芸術を普及する大切な機会です。増税の影響で地方公演が減少すると、芸術を享受する上で地域格差が生じる恐れがあります」
全国演劇鑑賞団体連絡会議事務局長の大井則生さんは「非営利の文化団体として、文化分野への課税自体が許せない」と訴えます。
「高齢化で、会員も年金生活者の割合が大きくなり、税率が上がるほど生活を切り詰めざるを得ない事態を招く。鑑賞の機会を奪いかねない。私たちは今年1月に反対声明を出しました。憲法は文化的な生活を保障しています。文化的な活動を萎縮させる増税は憲法違反ではないでしょうか」
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