2019年10月23日(水)
主張
日米貿易協定審議
“売国”的協定の承認許されぬ
安倍晋三政権とトランプ米政権が先に署名した日米貿易協定の承認案が国会に提出され、今週から審議が始まります。国会審議に先立ち政府は、日米貿易協定が発効した場合の国内経済への「効果」について暫定試算を発表しました。大ざっぱな計算ですが、日本の農業生産額は約600億~1100億円減少するとしています。協定発効による国内の農畜産業への深刻な影響はごまかせません。日本の農畜産業に重大な打撃を与える、“売国”の日米貿易協定の承認を阻止する世論と運動を広げることが不可欠です。
国内農畜産業の打撃明白
日米貿易交渉は、トランプ大統領が来年の大統領選をにらんで、国内の農業団体などの支持を取り付けるため、安倍首相に自国に有利な協定を結ぶように迫って、日本に押し付けたものです。今月7日に両国政府が署名した協定の中身は、牛肉や豚肉、乳製品などの対日輸出の関税を大幅に削減・撤廃し、牛肉の低関税での輸入枠を実質拡大するなど、日本が一方的に譲歩したものとなっています。
そのことを改めて浮き彫りにしたのが、安倍政権が先週明らかにした暫定試算です。「暫定」であるため詳細な計算の前提はわかりません。そのような不十分なものでも、関税削減・撤廃による米国産農産物の流入で、日本の農業生産額は大きく落ち込むとしています。これに加えて昨年発効した米国を除く11カ国の環太平洋連携協定(TPP)による輸入拡大の打撃を加えると、農業生産額は約1200億~2000億円もの大幅減少になるといいます。最も影響を受けるのは、牛・豚肉や乳製品、小麦などです。
その一方で暫定試算は、実質国内総生産(GDP)で約0・8%上昇し、雇用は約28万人増えるとしています。これにはごまかしがあります。日米貿易協定では確約が取れていない日本製自動車・同部品の対米輸出関税撤廃を織り込んでいるためです。根拠がない、机上の計算です。
日米貿易交渉について安倍政権は当初、物品に限った物品貿易協定(TAG)だと主張していました。しかし、実際には今回、物品だけでなくデジタル貿易についても合意しています。さらにこれからサービスなどでも交渉することになっています。文字通り、事実上の日米自由貿易協定(FTA)づくりの手始めです。
しかも今回の協定では、日本が農畜産物の輸入拡大で大幅譲歩する一方、日本が米国に求めた自動車などの関税の撤廃は「さらなる交渉」としただけで事実上白紙です。トランプ政権が日本を脅す手段に使った、自動車の追加関税についても実行しないという明確な約束はありません。それどころか協定は「安全保障上の必要な措置をとることを妨げない」と明記し、アメリカが日本に追加関税を課す余地を残しています。
経済・食料主権を守れ
安倍首相や交渉にあたった茂木敏充現外相はいまだに日米「ウィンウィン(相互利益)」の合意だと言い張りますが、日本が大幅譲歩した明白な事実は動かせません。
“売国”の協定の批准を阻止するため、農業団体をはじめ広範な国民が力を合わせ、日本の経済主権・食料主権を守れの声を上げることが重要です。