2019年10月26日(土)
菅原経産相辞任
説明放棄を首相も黙認
幕引き図る狙いは明白
「あした(25日)国会で説明する」。公設秘書が選挙区内の有権者の通夜で香典を手渡すなどの公職選挙法違反の疑惑が週刊誌で報じられた菅原一秀経済産業相は24日、記者団にこう述べていました。ところが翌25日朝、出席する予定だった衆院経産委員会の開会前に、安倍晋三首相に辞表を突然提出。安倍首相も疑惑を具体的にただすことなく、あっさり辞任を認めたのです。官邸を含め、国民への説明責任を放棄し、疑惑の幕引きを図る狙いがありありです。
菅原氏は辞任の理由について、「私の問題で国会を停滞させ、法案審議ができないということは私の本意ではない」などと述べました。ここには、疑惑そのものに真摯(しんし)に向き合おうとする考えも、国民に政治不信をもたらした責任への自覚もみられません。政権運営に影響を与えないようにする保身だけです。
菅原氏の秘書が香典を渡したとされるのは17日。しかし同氏は、過去にメロンやカニなどを選挙区内の100人以上に配っていた疑惑を15日の参院予算委で追及されたばかりです。国民の監視や野党の批判に対する鈍感さが表れています。
常態化の疑い
菅原氏は記者団に、台風19号対応の閣僚会合があり自身は通夜に出席できなかったが、「結果として秘書が香典を出した」「事実関係を後で知った」と説明しました。これは秘書が香典などを有権者に配ることが常態化していた疑いを抱かせます。
折しも関西電力の“原発マネー”還流疑惑が発覚し、その解明について経産相として監督指導責任を果たすべきでした。しかし、菅原氏は参院予算委(15日)の答弁で、関電役員らの参考人招致は「国会で決めることだ」と消極的態度を示していました。「政治とカネ」でスネに傷ある閣僚が、関電の資金還流疑惑の解明に及び腰なのは無理もありません。
公選法は、有権者への寄付行為を禁止し、事務所関係者の行為にも「連座制」による政治家本人の公民権停止などの罰則を定めています。過去には、小野寺五典元防衛相が選挙区内で線香を配り書類送検され、2000年に議員を辞職。その後罰金と公民権停止3年の略式命令を受けています。菅原氏が説明責任を果たさない以上、議員の職も辞すべきです。
辞任は9人目
第2次安倍政権発足以降、現職閣僚の辞任は9人目。病気などでの辞任を除けば、国の補助金を受けた企業からの献金(西川公也農林水産相=2015年2月辞任)や建設会社から「口利き」の見返りに金銭を受け取った疑惑(甘利明経済再生担当相=16年1月辞任)など「政治とカネ」での辞任が目立ちます。いずれも説明責任は果たしていません。
組閣時には「適材適所」を強調する安倍首相ですが、閣僚辞任のたびに「任命責任は私にある」などと「おわび」を繰り返してきました。しかし、実際に「責任」を果たしたことは一度もありません。野党は結束して菅原氏の疑惑と安倍政権の姿勢を厳しく追及する方針。「丁寧に説明する」と同様、軽い言葉で世論をないがしろにする姿勢は、いずれ国民の厳しい審判に直面することでしょう。
(林信誠)