2019年11月9日(土)
ここが問題 パワハラ指針素案
対象狭く リストラ正当化も
職場のパワーハラスメントに対し事業主に防止措置を義務付ける法律の指針素案について、労働者や専門家から批判の声が噴出しています。規制の対象が狭く、中身も後退させかねない内容になっているからです。指針素案を見てみると―。
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●誤解を招く
問題なのは、パワハラの定義です。「優越的な関係を背景とした言動」について、「抵抗または拒絶できない蓋(がい)然性が高い関係」と定義しました。
例として同僚や部下からの言動もあげていますが、“上司なら部下に抵抗できる”という蓋然性があるとしてパワハラとされない恐れがある表現です。労働者からは「優越的」とは抵抗できない関係に限らず、被害者の感じ方も含めて「抵抗しがたく感じる関係性を背景として行われるもの」とする修正を求める意見が出ています。
指針素案では、パワハラとなる「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」について、「労働者の行動が問題となる場合は相対的な関係が重要な要素となる」としています。
労働者の行動に問題があれば、過剰な叱責がパワハラに該当しないかのような誤解を招く規定です。問題行動があっても業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導はパワハラに該当するよう明記する声が上がっています。
●弁解を例示
素案では、パワハラに該当する例と該当しない例を示していますが、これが問題です。
例えば、管理職である労働者を退職させるため、誰でもできる業務を行わせることはパワハラだと指摘。一方で、「経営上の理由で一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」は、パワハラにならないとしています。
全労連は、「追い出し部屋」など無法なリストラ手法を正当化する危険性を指摘。「使用者は違法行為について『経営上の理由』をあげる。責任逃れの弁解を例示することは許されない」として削除を求めています。
この例示について日本共産党の宮本徹衆院議員が削除を求めたのに対し、加藤勝信厚労相は「使用者がご指摘のような主張をする場合もあると承知している」と認めました。
●「付帯」無視
規制法については衆参の付帯決議がありますが、素案に多くが盛り込まれていません。
パワハラの判断について付帯決議で、「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつ、「労働者の主観」にも配慮するとされました。素案では「一般の労働者の多くが感じるような言動であるかどうかを基準とする」とされ、「労働者の主観」は排除されてしまいました。
また付帯決議では、自社の労働者が取引先や就活生に対して行ったハラスメントについても配慮するよう求めていましたが、素案は「方針の明確化」にとどまりました。
相談体制や迅速な対応、プライバシー保護や不利益取り扱い禁止など具体的措置を明記するよう求める声が出されています。
指針素案全体について日本労働弁護団は、「対象となるパワハラを極めて狭くとらえ、加害者・使用者に弁解を与えるものとなっている。これでは防止する実効性がないばかりか、害悪を生じかねない」と批判しています。