2019年11月12日(火)
主張
日米貿易協定審議
承認ありきのやり方許されぬ
安倍晋三政権が、日本の農畜産物やデジタル貿易の市場をアメリカに開放する日米貿易協定とデジタル貿易協定の二つの承認案の国会審議を本格化させようとしています。今週中にも衆院を通過させる動きも見せています。しかし、安倍政権は承認案の審議に必要な資料さえ国会に出しておらず、審議の前提は整っていません。拙速な審議で日本の農畜産業などの死活にかかわる協定の承認など許されません。
必要な資料は提出されず
二つの協定承認案は10月24日の衆院本会議で審議入りしました。その直後の菅原一秀前経済産業相と河井克行前法相の「政治とカネ」をめぐる疑惑による辞任が影響し、委員会での実質的な審議入りは与党が描いていた日程より遅れました。先週末開かれた承認案を審議する衆院外務委員会は、野党側が審議の前提となる資料の提出を求めていたのに、その資料を提出しないまま、与党などだけで審議するという異常な事態となりました。承認案の審議がほとんどなされていないにもかかわらず、安倍政権と与党は今週中にも衆院を通過させ、参院に送ろうとしているのは重大です。
日米貿易協定とデジタル貿易協定は、昨年9月の日米首脳会談での合意に基づき今年4月の交渉開始からわずか半年足らずで署名したものです。この間、首相とトランプ氏の首脳会談や、茂木敏充経済再生担当相(現外相)とライトハイザー米通商代表との協議が繰り返されてきました。その詳しい中身は明らかになっていません。
もともとこの交渉は、トランプ氏が大統領に就任した後、環太平洋連携協定(TPP)から離脱したため、国内で日本への農畜産物などの輸出で不利になったとの不満が出て、日本へアメリカに有利な協定を押し付けるために始まったものです。そこで何が話し合われ、日本が何を約束したかの議事録などの提出は不可欠です。
協定の実施による日本経済や日本国内の農畜産業への影響も、「暫定値」や「暫定試算」が公表されただけで、専門家が検証した正式な試算は年末になるというものです。その不十分な試算でも日本の牛・豚肉や乳製品などの生産額は大幅に減少するとなっており、国内農畜産業への打撃は隠せません。
しかも協定の実施で日本の国内総生産(GDP)が約0・8%押し上げられるという試算は、日本がアメリカに輸出する自動車や同部品の関税が撤廃されることを前提にした架空の計算です。今回の協定には自動車などの関税撤廃は盛り込まれておらず、英文しか公表されていない付属書には「さらに交渉」としか書かれていません。ごまかしの試算で承認を強行しようとするのは国会軽視の極みです。
次の段階の交渉の危険
安倍政権が二つの協定の承認を急ぐのは、1年後に迫ったアメリカ大統領選をにらんだ、トランプ大統領の意向に沿ったものです。今回の協定の発効後には、次の段階の交渉が待ち受けています。茂木外相は国会答弁で、次の段階の交渉分野は「特定されていない」と述べ、より広範になることを否定しませんでした。文字通りアメリカに有利な自由貿易協定(FTA)につながる危険は明白です。交渉拡大を許さないためにも、二つの協定の承認阻止が重要です。