2019年11月16日(土)
主張
日米協定案の可決
国会と国民を無視した暴挙だ
日本の農畜産物市場やデジタル市場をアメリカに開放する日米貿易協定とデジタル貿易協定の承認案が、衆院外務委員会で与党などの賛成多数で可決されました。国内の経済や農畜産業への影響を示す正式な試算は示されていません。国会に提出した協定の説明書では牛肉の低関税での輸入枠を一層拡大するとした表現も隠していました。安倍晋三政権の国会軽視・国民無視の姿勢は重大です。与党は来週の衆院本会議で可決し参院に送付しようとしています。日本の経済主権と食料主権にかかわる二つの協定承認案阻止の世論と運動を強めるときです。
短い審議でも問題次々
二つの協定承認案の審議は、10月末の衆院本会議で始まった後、菅原一秀前経済産業相と河井克行前法相の辞任があったため、実質的な審議入りが遅れてきました。協定承認案を審議する衆院外務委員会も、関連する農林水産委員会や経済産業委員会の審議も、数回しか行われていません。
とりわけ問題なのは、安倍政権が審議の前提となる国内経済や農畜産業に対する影響の試算について、不十分な「暫定値」や「暫定試算」しか示していないことです。これまでの環太平洋連携協定(TPP)や日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の承認案の審議などでは、かなり詳しい影響試算を出していたのに、日米協定承認案の場合だけは正式の影響試算を提出しないというのは、全く異常です。
しかもその短い審議でも、二つの協定の危険な中身は明白になっています。最大の問題は何といっても、協定によるアメリカからの牛・豚肉や乳製品などの輸入急増が日本の農畜産業に重大な打撃を与えることです。日米貿易協定の付属書には、アメリカからの牛肉輸入が一定の水準を超えたとき、その水準を「一層高いものに調整するため、協議を開始する」と明記しています。ところが外務省が国会に提出した協定の説明書には「水準を調整する」としか書いていません。政府が国会に提出した議案について「必要かつ分かりやすく」説明するはずの説明書の欠陥は見過ごせない大問題です。
それだけではありません。安倍政権が出してきた影響についての「暫定試算」には国内総生産(GDP)が約0・8%増えるとあります。しかしそれは今回の協定には盛り込まれていない日本がアメリカに輸出する自動車や部品の関税撤廃を前提にした架空の試算です。実際には協定の付属書でこの問題は「さらに交渉」としかなっておらず、「経済効果」は国民を欺くものです。こうした問題点にもまともに答えず、与党が協定承認案を採決したのは言語道断です。
トランプ氏の手柄づくり
安倍政権が、国会審議の大前提となる資料の提出にも応じず、来年1月の発効に間に合わせるためひたすら承認案の採決を急いだのは、来年のアメリカ大統領選で、トランプ氏に有利な“手柄”をもたらそうという思惑からです。トランプ氏のご機嫌を取るために、日本の農畜産業の犠牲も顧みないという“売国的”な態度です。
二つの協定の承認後にはより広範な、次の段階の交渉が待ち受けています。今後の交渉でのさらなる譲歩を許さないためにも、二つの協定の承認阻止が重要です。