2019年12月24日(火)
楽天 業者に送料押し付け
来年3月実施を一方的通告
「独禁法違反だ」
インターネット通信販売大手の楽天が暴走しています。注文金額が3980円を超えた場合の送料を一律「無料化」し、負担を出店業者へ押し付ける計画に社会的批判が高まっています。それにもかかわらず楽天は19日、来年3月18日から「無料化」を実施すると、出店業者らに一方的に通告しました。(新井水和、杉本恒如)
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楽天が送料「無料化」を打ち出したのは8月1日でした。
「単なるダンピングの強要」「商品価格に上乗せしきれず、赤字になる」「大会社にこの苦労はわからない」
出店業者から不満や批判が噴出しました。
「無料化」に反対する出店業者らは10月に「楽天ユニオン」を結成。楽天の「独裁制」がひどくなり、限度を超えたと訴えました。
10月23日付で本紙が報じた後、週刊誌や全国紙、テレビ局などが相次いで批判的に報道し、楽天の送料「無料化」強要は社会問題となりました。
出店業者らは独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」だと指摘し、公正取引委員会に申告して適当な措置をとるよう求めています。本紙の取材に対し楽天は「関係当局」と「やりとり」があると認めています。
それなのに、楽天は来年3月18日からの「無料化」実施を一方的に通告したのです。三木谷浩史会長兼社長は開き直り、ツイッターで言いたい放題です。
「商売やったことがない役人に何がわかる」「すべてのステークホールダーをすべてハッピーにすることは無理です。例えば、送料無料ラインの統一、大変だけどやればお客さんはもっと店舗さんから買ってくれる」(15日)
楽天ユニオンの顧問弁護士を務める川上資人さんは話します。
「送料『無料』といいますが、送料は誰かが負担しなければなりません。実際には、出店業者に対する送料負担の強要です。一方的に規約を変更して立場の弱い出店業者に不利益を押し付けるのは優越的地位の乱用にあたります。問題なのは公正取引委員会が適切な対応をしてこなかったことです。これまで大企業が違反行為に当たることをしても公取が動かないから、中小企業は報復を恐れて声を上げることができませんでした。楽天ユニオンはその状況を変えようと、結成されたのです」
規約変更 好き放題
消費者 大損の恐れ
出店業者は以前から楽天の「独裁」に苦しんできました。「楽天地獄」と称される高率の手数料。一方的な規約変更。罰金制度の導入。度重なる不利益強要のあげくの送料「無料化」押し付けは「店舗の息の根を止めかねない」と、楽天ユニオン参加者らは危機感を募らせています。
一方的な取引条件
楽天の横暴がまかり通ってきた根底には、楽天が一方的に定める規約で出店業者との取引条件が決まる「規約ビジネス」があります。
楽天は出店業者にネット通販事業の基盤を提供するプラットフォーマーです。出店業者は楽天の規約を認めなければ楽天のシステムを使って事業を営むことができません。
楽天の出店規約は「予告なく本規約および本規約に付随する規約の内容を変更することができる」と定めています。ネット通販事業で楽天と競合する米社アマゾン・ドット・コムの出品規約にも同様の条項があります。
公正取引委員会のアンケート調査(4月)によると、ネット通販市場で規約を「一方的に変更された」と回答した出店業者は楽天市場で93・2%にのぼり、アマゾン(72・8%)やヤフーショッピング(49・9%)を引き離して最多でした。
しかし規約に書いたからといって好き勝手な規約変更が法律上許されるわけではありません。公取委はプラットフォーマーが規約の一方的変更によって不当な不利益を与える行為は独占禁止法上の問題になるという考えを示しています。
倒産店舗続出する
楽天ユニオンの勝又勇輝代表(32)は話します。
「常識的な範囲の規約変更ならよいのですが、楽天は当初の規約と全く違う罰金制度などを導入してきました。高い宅配運賃を自分で負担するとなれば、赤字で倒産する店舗が続出するでしょう。取引相手からこれだけ多くの異論が出たら、普通の会社なら立ち止まって考えて中止するのではないでしょうか」
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アマゾン対抗措置
楽天は送料「無料化」の狙いについて「競合他社との兼ね合い」だと説明し、アマゾンへの対抗措置であることを示唆しています。
アマゾンは自社の物流拠点から発送する商品については2000円以上の注文で通常配送を「無料」としています。大量の自社販売商品に加え、アマゾン以外の出店業者がアマゾンの物流システムを利用して売る商品も同じ扱いとしています。
しかし、アマゾンと楽天ではビジネスモデルが異なります。
アマゾンは全国15カ所以上の物流拠点に大量の商品を保管し、各地の消費者の注文に応じて近隣の拠点から発送します。
大口発注を理由にヤマト運輸などに委託する宅配運賃を大幅に値下げさせたり、個人事業主に宅配を委託したり、物流センターの労働者を低賃金で酷使して、コストを削減しています。
他方、楽天市場の商品の多くは全国に散在する楽天以外の出店業者が販売します。楽天の物流システムは一部地域しかカバーしていないため、ほとんどの出店業者は独自に物流業者と契約を結び、自らの店舗から全国へ商品を発送しています。消費者の居住地が店舗から遠ざかれば遠ざかるほど、宅配運賃は高額となるのです。
送料分の値上げも
それにもかかわらず、楽天は3980円以上の注文で送料を一律「無料」とし、その分を全額、商品価格に上乗せするよう勧めています。もしその通りにすれば、送料の安い近隣の消費者が不利益を被ります。
例えば近隣への宅配運賃が600円でも、北海道などへの運賃のもとをとるためには商品価格を800円程度値上げせざるをえないと勝又代表はいいます。
複数個の商品を注文する消費者はさらに大損をします。今までなら段ボール箱の大きさが変わらなければ商品が1個でも10個でも送料は600円で済んだのに、送料「無料化」で商品1個の価格が800円上がれば、10個買うと8000円の値上がりになります。勝又代表は話します。
「今回の規約変更が自社の条件に合わないので退店するという店舗がすでにたくさん出ています。消費者の利益にもなりません。一方的な規約変更は何としても阻止したい」