2020年2月1日(土)
福島第1汚染水 海洋放出「社会的影響は大」
“現実的選択肢”大気放出も
国の小委が報告書
東京電力福島第1原発で増え続ける放射能汚染水をめぐって、処理装置でも除去できない高濃度のトリチウム(3重水素)を含む汚染水の処分方法について社会的影響などを検討してきた国の小委員会(山本一良委員長)が31日、報告書を大筋でまとめました。
放射性物質を基準以下まで薄めて海に流す案について、国内で実績があり「現実的」としつつも「特段の対策を行わない場合の社会的影響はとくに大きくなる」と指摘。さらに「どのような形で処分しても、風評被害を生じうることは想定すべきだ」として、地元や農林水産業者ら関係者の意見を丁寧に聞き、責任と決意をもって決定するよう、政府に求めています。
報告書は、同日の会合で出された意見を踏まえて文言を一部修正し正式決定する予定。それをもとに政府が処分方法を検討します。
小委は、海洋放出のほか、水蒸気にして大気に放出▽水素として大気に放出▽地層注入▽地下に埋設―という五つの処分方法について、社会的影響などを2016年から検討。今回、海洋放出と大気放出を「現実的な選択肢」とした一方で、国民の声を受けて新たに検討に加えたタンクでの長期保管は、敷地確保の観点で「相当な調整と時間を要する」としました。
解説
原子力災害を象徴する矛盾
福島第1原発の放射能汚染水の処分方法について国の小委員会が出した結論は、国内で実績がある現実的な選択肢としてあげた海洋放出案を「社会的影響が大きい」と指摘せざるをえないなど、原子力災害の特異性を象徴する矛盾に満ちた内容になりました。
トリチウム汚染水をめぐっては、別の作業部会で技術的・コスト的な評価を実施。それを受けて今回の小委は約3年間、社会学や水産学など幅広い分野の専門家が、風評被害などの社会的影響について検討してきました。
福島県の農林水産業は、原発事故で価格が下落したコメの全量全袋検査で信頼確保に努めたり、漁業者が厳しい自主基準を設けるなど、風評被害対策に取り組んできました。しかし流通構造が変わり販路が回復せず「風評被害が固定した状態」になっていると小委は指摘。漁獲量は震災前の2割にも回復していないのが現状です。
すべての人の不安が払拭(ふっしょく)されていないもとでは、新たな風評被害が「上乗せされる形でさらなる経済的影響がもたらされる可能性がきわめて高い」と懸念し、対策の拡充・強化を求めました。
会合終了後、風評被害の専門家である関谷直也委員(東京大学准教授)は記者団に「消去法としてやむをえないかもしれないが、福島に与える影響はきわめて大きい。他に方法がなかったのか…」と述べました。
一方、漁業関係者や市民が提案したタンクによる長期保管のための敷地確保を「困難」とする見方については複数の委員から疑問の声が出ました。
原発事故の加害者である国と東京電力は、こうした国民の声に真摯(しんし)に向き合い、可能性をくみつくす義務があります。
(中村秀生)