2020年2月5日(水)
論戦ハイライト
衆院予算委 笠井議員の質問
8時間働けば 普通に暮らせる社会を
日本共産党の笠井亮議員は4日の衆院予算委員会の基本的質疑で、究極の「使い捨て」労働である「雇用によらない働かせ方」の実態を告発するとともに、最低賃金の大幅引き上げと全国一律制の確立で「8時間働けば普通に暮らせる」社会の実現を求めました。
雇用によらない働き方
笠井氏 究極の使い捨て労働
首相 広がること いいと思わない
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安倍政権が広げようとしているフリーランスなど「雇用によらない働き方」。しかしその実態は「究極の“使い捨て”労働ではないか」―。笠井氏は、都市部で増えている配達代行サービス「ウーバーイーツ」の働かせ方の実態を安倍首相に突きつけました。
ウーバーイーツは、スマートフォンのアプリで飲食物の配達を受発注するサービス。配達員は使用者であるウーバーの指揮命令を受けますが、労働者でなく「個人事業主」として扱われています。
笠井氏は、労働組合「ウーバーイーツユニオン」の配達員の声をとりあげ、三つの問題点をただしました。
一つは、労災保険がないことです。飲食店が配達員を雇うのと違い、ウーバーとの雇用関係がなく事故でも補償されません。
笠井 配達員は「命綱をつけないでビルの窓ふきをやっているようだ」と言う。こんな働き方を「よし」とするのか。
首相 フリーランスと呼ばれる働き方は多様であり、労働法制上の保護や競争法による規制はさまざまな課題がある。
笠井 実際にはそこが保障されていない。
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二つ目に、賃金の規定がなく最低賃金も適用されない問題です。
ウーバーの配達員の報酬は、飲食店からの「受取料金」、客への「受渡料金」、届け先までの距離に応じた「距離報酬」が中心です。配達依頼を待つ時間は無給の拘束時間になります。昨年11月には、ウーバーが一方的に報酬額を5キロ配達で22%も減額。配達員には死活問題の変更がメール一本で告知されただけです。
笠井 これでも「組織の中に閉じ込められ固定されている人を解放する」(政府の未来投資会議の中間報告)働き方と言えるのか。
西村康稔経済再生担当相 多様で柔軟な働き方の一つとして健全に発展していくよう環境を整えたい。
笠井氏は「これが健全なのか」と迫りましたが、西村氏は同じ答弁の繰り返し。笠井氏は「健全でないと言えないのか」と批判しました。
3点目には、団体交渉権の保障がされていない問題です。笠井氏は、配達員が働き方や報酬の改善を求め、労働組合を結成し団体交渉を求めても拒否していると指摘しました。
笠井 ウーバーなどに対し団体交渉に応じるよう直接交渉したらどうか。
首相 (笠井)委員が表で上げたような形で、雇用に似た形が広がっていくことは、私はいいと思っていない。
笠井氏は、世界で労働者保護の取り組みが広がっていると指摘。フランスでは、労災保険への加入、職業訓練、団体交渉権などを保障するエル・コムリ法(2016年)が制定されていると述べ、「日本でも、人間らしい労働に反する権利ゼロの働かせ方をなくすことは政治の責任ではないか」と追及しました。
その上で、「非正規雇用をはるかにしのぐ究極の使い捨て労働を増やすことは、最悪の賃下げ、景気悪化政策となる。今こそ8時間働けば普通に暮らせる社会をめざすべきだ」と求めました。
最低賃金
首相 大幅に上げている
笠井氏 人間らしい生活 程遠い
笠井氏は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の1997~2018年の賃金変動率(民間部門・残業代を含む)を示し、韓国は167%、英国は93%、米国は82%などと伸びる一方で、日本はマイナス8%だと指摘。「世界でも特異な賃金の下がる国になってしまっている。『8時間働けば普通に暮らせる社会』を築くことは、個人消費を活発にして日本経済を立て直す上でも喫緊の国民的課題だ」と強調。“最賃が史上初めて全国平均約900円(時給)を超えた”と誇る安倍首相に対し、「1000円以上は東京と神奈川だけで、17県が700円台だ。全国平均で27円増など、消費税10%への増税で吹き飛んだ」と指摘しました。
その上で、最賃法は憲法25条(生存権)にのっとり「健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」としていると強調。全労連の調査によれば、最低生計費は、東京都北区で時給1664円、最賃の最も低い佐賀県の佐賀市で同1613円(25歳単身男性・月150時間労働)だと指摘しました。
笠井 都市も地方も大差がない実態を認めるか。
加藤勝信厚生労働相 最低賃金審議会で用いられる標準生計費では、4人世帯で東京・月約29・6万円、北海道・同19・5万円、沖縄・同17・7万円だ。
笠井 1人世帯だといくらになるか。
厚労相 資料がないので答えられない。
加藤厚労相は、「通告がない」「手元に資料がない」と繰り返し、1人世帯の標準生計費を最後まで答えませんでした。
笠井氏は、都合の良い数字だけを挙げる政府に抗議。人事院の資料をもとに「1人世帯の標準生計費は12万190円。食費は2万6020円で、1日当たり3食で866円だ」として、「これで栄養バランスのとれた『普通に暮らせる』食事ができるか」と批判しました。
笠井氏は「最低生計費は全国どこでも時給1600円なのに、最賃は全国平均で時給約900円、年収300万円を切る」としてさらに迫りました。
笠井 憲法と最賃法が求める人間らしい生活とは、およそかけ離れた低水準ではないか。
首相 この4年で大幅に上げている。地域差を考慮せずに全国一律の最賃とすれば、中小企業を中心に経営が圧迫され、かえって雇用が失われる恐れがある。
笠井氏は「依然として先進国で賃上げ率が最低、マイナスになっている現状をみるべきだ」と批判。「最賃の地域間格差は、労働力の流出や地方消費の減退など、地域経済疲弊の要因にもなっている」と述べ、保守の人たちや与党からも最賃格差の是正・全国一律制を求める動きが広がり、全国知事会も“全国一律が世界の常識”だと政府に申し入れしていると力を込めました。
日本商工会議所などの調査(19年5月)では、最賃引き上げに必要な支援策として中小企業の要望が最も多かったのが「税・社会保険料負担の軽減」で65・2%に上るとして、中小企業の社会保険料の事業主負担を軽減し、賃上げを直接支援するよう強く求めました。
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最低賃金制度 最低賃金法に基づき、労働者をこれ以下の金額で働かせてはならないと定められた最低限度の賃金額です。正社員、派遣社員、パート、アルバイトなど雇用形態に関係なくすべての働く人に適用されます。最低賃金法の目的(1条)は、労働条件の改善をはかり、労働者の生活の安定や国民経済を発展させることです。
現行の最低賃金額は全国一律ではなく、都道府県ごとに定められます。毎年、厚生労働省の中央最低賃金審議会が金額改定の「目安」を示し、その後、各都道府県の最低賃金審議会の議論をへて決定されます。
新型肺炎
拡大防止 政府・与野党一丸で
笠井議員は質問の冒頭、新型コロナウイルスによる肺炎をめぐり、感染の早期発見と迅速な対応による拡大防止など万全な対策をとるとともに、医療体制がぜい弱な国への支援など疾病の国際的拡大の防止にとりくむよう求めました。
笠井氏は、「政府・与野党を問わず一丸となって協力し合わなければいけない課題だ」と強調。対応する医療・保健所の体制を強化することや、国民の不安に応える公的な相談窓口の整備を求めました。
加藤勝信厚生労働相は、感染症指定病院以外にも専門の診療窓口や相談センターを設置すると答弁しました。
笠井氏は、症状がないものの検査で感染が確認された例があるとして「知らず知らずの感染もありうる」と指摘。医療体制がぜい弱な国への支援を検討すべきだと主張しました。世界保健機関(WHO)と連携し「国際的な情報交流と統一した対応に、率先して役割をはたすべきだ」と訴えました。
安倍首相は「WHOや関係各国と情報連携を図り、適切に対応する」と答弁しました。
笠井氏は、新型肺炎の影響で打撃を受ける産業への経済対策を重ねて求めました。