2020年4月4日(土)
主張
「森友」の職員手記
再調査拒否は政権の責任放棄
国有地が不当な安値で払い下げられた「森友学園」問題で、公文書改ざんを強要され、自殺に追い込まれた財務省近畿財務局職員・赤木俊夫氏の妻が、国と佐川宣寿理財局長(当時)に損害賠償を求める訴訟を起こしたことを契機に、再調査と真相解明を求める声が広がっています。公表された赤木氏の手記は、佐川氏からの改ざん指示などについて重大な新事実を明らかにしています。ところが安倍晋三首相は「新しい事実はない」と言い張り、再調査に応じません。国政を揺るがす大問題が新展開を見せているのに、真相解明に背を向けることは通用しません。
手記で新事実が明らかに
赤木氏の妻が呼びかけた再調査を求めるインターネット署名への賛同者は約28万人にのぼります。市民団体が行っている佐川氏の国会証人喚問を要求する署名への賛同も10万人を超えました。いずれも短期間で一気に広がりました。共同通信の世論調査では、「再調査が必要」が73%を占めました(「東京」など3月29日付)。国民が真相解明を求めているのは明白です。
しかし安倍首相も麻生太郎財務相も、財務省が2018年6月に出した「調査報告書」と「大きなかい離はない」などと繰り返し、再調査を頑として拒んでいます。真実を手記に残した赤木氏の思い、その遺志を引き継いだ妻の気持ちを踏みにじるだけでなく、国民世論に真っ向から逆らう姿勢です。
17年2月に発覚した「森友」問題では、安倍首相や妻・昭恵氏の関与が国会などで追及され、首相は「私や妻の昭恵が関係していれば、首相も国会議員も辞める」と答弁し、佐川氏は文書を廃棄したなどと主張しました。昭恵氏らの名前が削除された公文書の改ざんはその直後から始まっています。
財務省の調査報告書は、極めて不十分な内容です。佐川氏の関与についても「具体的な指示はなかった」などとごまかしました。一方、赤木氏の手記は「すべて佐川理財局長の指示」「学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があった」と具体的に記しています。「大きなかい離はない」どころか大違いです。
手記は、「国会議員への説明」をめぐり、佐川局長から「原則として資料はできるだけ開示しないこと」との指示や、会計検査院の検査では、内部検討資料は「一切示さないこと」などの本省の指示があったことも明らかにしています。これらは国政調査権(憲法62条)の重大な侵害であり、会計検査院法にも反します。
手記は、改ざんという違法行為を強いられ、良心の呵責(かしゃく)にさいなまれ、苦しんだ当事者でしか書くことができない生々しさと説得力があります。財務省は調査報告書をまとめる際、赤木氏の手記は承知せず、読まなかったなどとしています。再調査をするのは安倍政権の最低限の責任です。
痛みを感じないのか
手記にある新事実を踏まえ、佐川局長をはじめとする財務省幹部と昭恵氏の証人喚問が必要です。
当時関係した財務省幹部が栄転していることも問題です。公務員として誇りを持って仕事をしていた赤木氏に改ざんを強い、死に追い込んだことに痛みを感じないのか。「真実を知りたい」。赤木氏の妻からの悲痛なメッセージは、国民共通の思いでもあります。