しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年6月16日(火)

陸上イージス計画停止

防衛相発表 民家近く配備 反対強く

“技術的問題見つかる”

 河野太郎防衛相は15日、防衛省内で記者会見し、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を秋田県と山口県へ配備する計画を停止すると発表しました。迎撃ミサイルについて技術的な問題が見つかり、改修に相当なコストと期間がかかるためだと説明しました。


図

 安倍政権は、北朝鮮の弾道ミサイルへの対処を口実に2017年に「イージス・アショア」導入を閣議決定。陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)と陸自むつみ演習場(山口県萩市)への配備を計画していました。

 防衛省はこれまで、迎撃ミサイルを発射した後、弾頭から切り離したブースターを、むつみ演習場については同演習場内に、新屋演習場については海に落下させる措置を講じると説明してきました。しかし、今年5月下旬、米側との協議の結果、演習場内と海上に確実に落下させるためには、ソフトウエアに加えハードウエアを含めたシステム全体の大幅な改修が必要となることが判明。河野氏は15日の会見で「(ブースターを)確実にむつみ演習場に落とせることにならないと判明し、(改修の)コスト、期間を考えると配備のプロセスを進めるのは合理的ではないと判断せざるを得なかった」と述べました。改修には約12年、2000億円以上かかるとの見通しを示しました。

 今後の対応については、近く国家安全保障会議(NSC)に報告し、検討していくとしています。

 配備候補地となった両演習場は、住宅地に近接しており、配備計画自体が無謀なものでした。地元自治体や住民が強く配備反対を訴えるなか、地元への説明資料に誤りが見つかるなど防衛省の不手際も明らかになりました。無謀な計画と反対の声で配備への矛盾が深まるなか、事実上の撤回に追い込まれた形です。

計画断念せよ

 日本共産党の穀田恵二衆院議員(国会議員団外務部会長)の話 河野太郎防衛相が「イージス・アショアの配備に関するプロセスを停止する」と表明しました。このことは極めて重大で、配備に反対してきた国民の世論と運動に押された結果です。

 日本共産党は、「イージス・アショア」の配備撤回を国会で繰り返し要求し、野党合同で現地調査も行い、配備計画への周辺住民の怒りや不安の声を受け止め、ともに運動してきました。

 政府は「再調査を引き続き行う」とし、いまだに配備計画に固執しています。この態度を根本から改め、「イージス・アショア」の配備計画を撤回し、断念すべきです。

解説

官邸主導の「武器爆買い」破綻の始まり

 陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備「停止」が唐突に発表されました。河野太郎防衛相は15日の会見で、迎撃ミサイルのブースターが演習場内や海に確実に落下する保証がないことをあげました。しかし、この問題は以前から繰り返し指摘されていたことであり、防衛省側も当然、分かっていたはずです。

 安倍政権は就任以来、米国の要求に応じて、F35ステルス戦闘機やV22オスプレイなど、防衛省・自衛隊さえ必要としていない高額兵器の導入を次々と決定し、軍事費の高騰を招いてきました。イージス・アショアの配備計画「停止」は、そうした官邸主導の「米国製武器爆買い・おしつけ」路線の破綻の始まりであり、「ブースター」問題は、それを覆い隠すための口実にすぎません。

 もともと、防衛省は北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対して、イージス艦の増勢などで対処する方針を掲げており、同省の「中期防衛力整備計画」にも、イージス・アショアの導入は盛り込まれていませんでした。

 ところが、2017年、米側から「米本土防衛」のためにイージス・アショア導入を要求されると、安倍晋三首相は同年秋の日米首脳会談で、トランプ政権の「バイ・アメリカン」(米国製の武器を買え)路線に迎合し、12月に「2基導入」を閣議決定しました。

 しかし、その導入費用は当初の「2基1600億円」から、公表された部分だけでも4504億円に。さらにレーダーや迎撃ミサイル、施設建設費を含めれば1兆円規模に膨れ上がります。単価でみれば、自衛隊史上最も高価な兵器です。

 しかも、その迎撃能力は限られており、現在、主流となっている多弾頭や超高高度の弾道ミサイルや、ロシアが開発している極超音速ミサイルなどには全く対応できません。まさに壮大なムダです。

 河野防衛相は会見で、あくまで配備計画「停止」であることを強調し、イージス・アショアで使用が予定されていた迎撃ミサイルや、防衛省が米軍需企業から直接購入を計画している最新鋭レーダーなどはそのままイージス艦で使用する考えを示しています。

 しかし、いま求められるのは配備計画の「撤回」であり、イージス・アショアにかかる予算措置をすべて解消し、その費用を新型コロナウイルスで苦しむ国民のために回すことです。

 (竹下岳)

「反対緩めない」

 「イージス・アショア配備を考える山口の科学者」共同代表の増山博行・山口大学名誉教授の話 計画停止の理由である迎撃ミサイルのブースター部分が自衛隊演習場内に確実に落とせない問題は、われわれがずっと指摘していた通りで、決断が遅すぎるぐらいです。地元住民は当初からブースターが住宅地に落下すると懸念していました。計画は「撤回」ではなく「停止」です。別のレーダー基地を建設するなど新たな計画が持ち上がる可能性もあります。反対の手を緩めることはできません。


pageup