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2020年8月14日(金)

主張

「黒い雨」の控訴

被爆者の声にどこまで逆らう

 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」の被害をめぐる訴訟で、国は、住民ら84人全員を被爆者と認めた原告全面勝訴の広島地裁判決を受け入れず、広島県・市とともに広島高裁に控訴しました。「控訴断念」を求める原告をはじめとする被爆者の悲痛な声にあくまで背を向け、裁判を長引かせる安倍晋三政権の姿勢は重大です。控訴を取り下げ、被爆者の幅広い救済に即刻踏み出すべきです。

破綻した主張に固執し

 広島地裁判決(7月29日)は、「黒い雨」を浴びて被害を受けた人たちの援護対象区域を狭くした国の不当な線引きを退け、被爆者の被害実態にもとづき広く救済することを国に求めた画期的な内容です。内部被ばくの影響も加味した健康被害の検討も指摘するなど、国のこれまでの被爆者援護行政を根本から問うものでした。

 国は、同判決は「十分な科学的知見」はないと強調します。しかし、国の指定した区域外で住民が原爆に起因する病気に苦しみ、亡くなった事実は、裁判を通じ明らかになっています。広島地裁判決も被害をめぐる住民の陳述は合理的と認めています。国の言い分はもう成り立ちません。

 国が控訴と合わせ、援護区域の拡大を視野に入れた再検討を表明したのも、これまでの主張の行き詰まりの反映です。援護区域が実態に合わないと認めるのなら、控訴をやめ、高齢化した原告全員に直ちに被爆者健康手帳を交付し、すべての「黒い雨」被爆者の早期救済に力を尽くすのが筋です。

 国が控訴に固執するのは、同判決が、原爆被害を「過小評価」してきた従来の基本姿勢を否定する中身だからです。1980年、被爆者援護運動の高まりに対し、政府は「戦争という国の存亡をかけての非常事態」では、その犠牲は「すべての国民がひとしく受忍しなければならない」として原爆被害への国家補償を認めない立場を示しました。そして、被爆者支援を放射線障害の一部に限る方向を示した「原爆被爆者対策基本問題懇談会」答申を基調にしました。

 アメリカの核戦略下で進められた日米軍事同盟の強化路線が背景です。原爆投下の違法性とその補償を認めれば、アメリカの核政策の障害となると判断したのです。

 1954年の南太平洋ビキニ環礁でのアメリカの水爆実験では、多くの日本漁船員が被ばくし、放射線障害に苦しんだにもかかわらず、日本政府は「政治決着」をはかりました。被害の全容解明と責任追及をやめたのは、核兵器の非人道性が明らかになり、反核世論が強まることを恐れたアメリカの意向に追随したためでした。

 原爆被害を矮小(わいしょう)化し、被爆者に冷たい行政を続ける日本政府の態度は、アメリカの「核の傘」に依存し、核兵器禁止条約への参加を拒む姿勢と深く結びついています。被爆者の悲願に応える新しい政治を一刻も早く実現することがいっそう重要になっています。

幅広い救済の立場をとれ

 被爆者の長年のたたかいは、被爆者援護行政の矛盾を浮き彫りにし、根本的転換を迫っています。実態に合わない狭い基準でなく、高齢化した被爆者を早く幅広く救済する方向へ転じる時です。国家補償にもとづく援護と被爆者施策の抜本的改善に取り組むことが政府に課せられた責任です。


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