2020年8月25日(火)
主張
米軍駐留経費負担
筋通らぬ「思いやり」は不要だ
日本に米軍が駐留するのに必要な経費(在日米軍駐留経費)の負担をめぐる日米交渉が今秋、本格化する見通しです。同経費の日本側負担のうち、日米地位協定にも反する「思いやり」予算の特別協定が2021年3月末で期限を迎えるためです。トランプ米政権は現状の4倍以上になる法外な負担要求を日本側に伝えていたことも明らかになっています。「思いやり」予算は廃止が当然であり、増額が許されないのはもちろん、特別協定の延長もやめるべきです。
総額は10兆円近くにも
在日米軍への「思いやり」予算は、円高・ドル安と財政難を理由にした米国の要求に応じ、1978年度に始まりました。しかし、日米地位協定24条は、「日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費」は「日本国に負担をかけないで合衆国が負担する」と明記しています。78年当時、防衛庁長官を務め、「思いやり」予算の生みの親とされる金丸信氏(元自民党副総裁)は著書で、同協定に反するのを承知の上での「政治的決断」だったと明かしています。
「在日米軍駐留費の分担増は政府内でも長くタブー視されてきた」「亘理(彰・防衛)施設庁長官は、まず、地位協定をじっくり研究したらしいが、(米軍の)経常的経費は地位協定第二十四条一項で『米側負担』に該当するという。しかし、ここを切り抜けて妙案を考えないことにはどうにもならない」「ここは一番“政治的決断”が必要だと私は思った」(『わが体験的防衛論』)
金丸氏は同著で、「“思いやりの精神”の前に不可能ということはない」と豪語しています。
その言葉の通り、米軍基地で働く日本人従業員の福利費などの負担(78年度62億円)から始まった「思いやり」予算は、79年度に新規の基地施設の整備費などにも拡大され、額も毎年膨れ上がります。87年には、政府自身がこれ以上の負担は不可能と国会答弁していた基地従業員の労務費そのもの(退職手当など)に対象を広げるため、米国と特別協定を結びます。政府は、特別協定は「暫定的、一時的、特例的な措置」だと弁明しましたが、その後も改定を繰り返し、今では基本給を含めた労務費の全てと米軍基地で使う光熱水料、訓練移転費まで負担しています。
しかも、政府は、沖縄の米軍基地・演習を移転するSACO(沖縄に関する特別行動委員会)経費の負担を当初予算で97年度から始めます。2007年度には、沖縄の辺野古新基地建設などのため米軍再編経費の負担も開始します。
その結果、20年度予算には、「思いやり」予算1993億円、SACO経費138億円、米軍再編経費1799億円の計3930億円が盛り込まれています。いずれも日米地位協定に反する負担で、78年度から20年度までのこれら予算の総額は10兆円近くに達します。
米追随から抜け出す時
「思いやり」予算に関し、ボルトン前米大統領補佐官は、現職だった19年7月、当時、国家安全保障局長だった谷内正太郎氏に対し、トランプ大統領が年間80億ドル(約8500億円)の負担を求めていると伝えたことを回顧録で告白しています。“不可能はない”とまで言われる「思いやり」という名の、屈辱的な対米追従から今こそ抜け出すべきです。