2020年8月30日(日)
国政私物化 語らぬ首相
森友 加計 桜 辞任表明でも消えない説明責任
社会部長・三浦誠
森友、加計、桜を見る会―。数々の疑惑で追及を受けた安倍晋三首相。辞任を表明した会見(28日)では一連の疑惑について、「(説明が)十分かどうかは国民の皆さんが判断される」と述べたのみ。国会で「説明責任」という言葉を重ねて口にしてきましたが、国民が納得いく説明は最後までありませんでした。
安倍首相にまつわる疑惑に共通するキーワードがあります。「国政の私物化」です。
首相は同日の会見で、国政の私物化という批判は「国民の誤解か。反省すべき点はないか」と質問され、「私物化したというつもりはまったくありません」と早口で答えました。実態はどうか。
8億円も値引き
森友学園疑惑では、安倍首相の妻、昭恵氏が名誉校長だった小学校の建設用地として、国有地が8億円も値引きされ、売却されています。同学園の籠池泰典元理事長=詐欺罪で起訴=は、当初「安倍晋三記念小学院」と名付けて寄付集めをし、昭恵氏付の政府職員を通じて財務省に優遇措置を求める問い合わせをしていました。「私人」である妻に、何人もの政府職員を秘書役として付けるという特別扱いもしています。
首相自ら「腹心の友」と呼んだ親友が経営する加計学園には、規制緩和の特例に特例を重ね獣医学部の設置を認めています。このとき前川喜平・文部科学省事務次官(当時)は、安倍首相側近の官邸官僚から「総理は自分の口では言えないから、私が代わって言う」と設置推進を迫られました。前川氏は次官退職後、本紙の取材に「公平公正であるべき行政がゆがめられた」と告発しています。
1952年に吉田茂首相(当時)が始めた伝統行事である首相主催「桜を見る会」は、各界の功績や功労があった人を招き慰労するのが本来の趣旨です。それを安倍首相は、自らの後援会員を大量に招待しました。詐欺罪で告発されているマルチ商法の経営者や、カジノ汚職の証人買収で起訴されているマルチ会社元社長まで参加しています。
いずれも首相と妻が自らを支援する“仲間うち”のために、国家権力を私的に利用した疑惑です。
その結果、何がおきたのか―。
赤木さんの遺書
森友疑惑では土地取引の決裁文書の改ざんを強制された財務省近畿財務局元職員の赤木俊夫さん=当時(54)=が、自ら命を絶ちました。「これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ、 手がふるえる 恐い」と遺書を残して…。
俊夫さんの妻、雅子さんは、改ざんが安倍首相の「私や妻が関係しているということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」という答弁がきっかけだったと指摘。「安倍首相、麻生(太郎財務)大臣、私は真実が知りたい」と、国や佐川宣寿・元財務省理財局長を相手取り損害賠償請求訴訟を起こしています。しかし雅子さんの求める再調査さえ安倍政権は拒否しています。
安倍首相は、国政を私物化していないと言い切るなら、自身の疑惑や批判に対して誠実に答えるべきです。辞任しても説明責任と、一人の命が失われた事実はけっして消えません。