2020年10月5日(月)
政治考
学術会議への人事介入
菅政権の官邸強権政治
「官邸による強権政治は、安倍政権が常習的に行ってきたことです。菅氏はその中枢で、人事権を振りかざして官僚にいうことを聞かせたり、あるいは、マスコミに介入したり、今まで同じことをやってきました」
こう指摘するのは、法政大学名誉教授の五十嵐仁さん。その典型が、集団的自衛権の行使容認のため、政府の解釈変更はできないとしてきた内閣法制局長官を更迭したことです(2013年)。後任には内部昇格の慣例を破って、行使容認に積極的な外務官僚を起用し、翌年に政府解釈を変更しました。今年1月には、「官邸の番人」といわれた黒川弘務東京高検検事長の定年を延長し、検事総長につけることを狙いました。そのために、「国家公務員法の定年延長は検察官には適用されない」との法解釈を変更し、黒川氏の定年延長を閣議決定。それをあとづけるように検察庁法まで改悪しようとしました。
今回も、日本学術会議法の規定にもとづく内閣総理大臣の任命について、「政府が行うのは形式的任命にすぎません」(中曽根康弘首相=当時、1983年5月参院文教委)という政府解釈を無視して任命拒否に打って出たのです。しかし、憲法6条が「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する」と規定しているのと同じく、「会員は、第十七条の規定による推薦(学術会議の推薦)に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(学術会議法7条の2)という規定は政府の「拒否権」を想定していません。
そのことを政府は「形式的任命」だと国会答弁で認めてきたのです。首相による任命拒否は違法であり、国会答弁で確立した答弁を覆すという点で立法権の侵害でもあります。
「こんなことをしていたら国を滅ぼす」と懸念を表明するのは、松宮孝明立命館大学教授。任命拒否された6人の一人です。
なぜか。菅政権による日本学術会議の推薦候補の任命拒否は、違法であるだけでなく、「学問の自由は、これを保障する」という憲法23条を侵害するものでもあるからです。憲法で一番短いこの条項は、戦前、侵略戦争遂行のため学問の自由が侵され、思想統制が進められた痛苦の歴史を踏まえたものです。学術会議が政府から「独立して」職務を行うとしたのも、政府の干渉を排するためです。
松宮氏は「学術の発展は人々、社会のためのものです。一部の人にねじ曲げられては学術の役割を果たすことはできません。結局、社会の進歩が遅れることになります。ガリレオの地動説をめぐる逸話が有名です。だから、学問の自由が大事なのです」と訴えます。
その意味で、今回の学術会議人事への首相による介入は、任命拒否された6人だけの問題ではなく、学術会議全体にかけられた攻撃であり、学術の発展によって恩恵を受ける国民全体にかけられた攻撃なのです。
菅氏は強権政治を行うことで官僚を支配し、メディアも支配し、科学の世界も支配できると思ったのかもしれません。しかし、ことは首相の思惑の逆をいっています。
五十嵐氏はいいます。「今回、首相は虎の尾を踏んだ。これはだれがみてもおかしい。菅氏はそんな人だったんだと多くの国民が思う。安倍首相の陰に隠れて、強権政治を担ってきた菅氏の本質・地金が明らかになった」