2020年11月1日(日)
主張
温室ガス実質ゼロ
絵に描いた餅にしないために
菅義偉首相が、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを表明しました。50年にゼロは、すでに120カ国以上が掲げているものです。これまでゼロ達成の年限を明示しなかった日本が、ようやく国際標準の目標を掲げたことになります。「脱炭素」の国際的な潮流が加速する中、後ろ向きの日本政府の姿勢は国内外から厳しく批判されていました。実質ゼロの目標を、絵に描いた餅にしないために、エネルギーをはじめ従来の政策を根本から転換することが急がれます。
「石炭中毒」抜け出せ
地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」(2015年採択)は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く抑え、1・5度以内に抑制する努力目標を掲げています。今世紀後半に世界の温室効果ガスの排出量を、森林の吸収分などを差し引いて実質ゼロにすることも決めました。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は18年公表の特別報告書で、1・5度上昇であっても気候や環境に打撃を与えると警告しました。そして、50年の実質ゼロを確実に達成するために、30年の排出削減目標を大きく引き上げる必要性を強調しています。
日本が50年までの実質ゼロを掲げた以上、問われるのは実効性ある対策であり、なにより重要なのは、30年の削減目標の大幅な引き上げです。現在の日本の目標は「30年度に13年度比で26%」です。国際的な基準の1990年比で換算すると、わずか18%削減です。欧州諸国は90年比で50%以上削減を目指しています。日本も2030年までに少なくとも40~50%削減に目標を引き上げるべきです。
国連のグテレス事務総長から「石炭中毒」と非難される石炭火力発電への依存からの脱却も急務です。菅首相は「抜本的に転換する」と所信表明演説で述べました。しかし、日本共産党の小池晃書記局長が参院代表質問(30日)で、新規建設中止、既存施設の計画的な停止・中止を求めると、首相は応じません。政府は7月に「高効率」の石炭火力は温存・推進の方針を示しており、これでは50年の実質ゼロは不可能です。石炭火力の段階的全廃の決断が必要です。
日本が世界に後れを取っている再生可能エネルギーを本格的に導入することがいよいよ重要です。18年に政府が決めたエネルギー基本計画では、30年度の総発電量に占める電源構成の再エネ比率は22~24%にとどまっています。経済同友会などは30年に4割以上にすることを求めています。エネ基本計画を根本から改めるべきです。環境保全のルールづくりを行い、再エネの飛躍的な普及拡大に踏み出す政策に転換を図る時です。
原発に頼るのは許されぬ
菅首相が、エネルギー政策で「原子力政策を進める」などと原発を位置付けていることは大問題です。梶山弘志経済産業相は「今後10年間は再稼働に全精力を注ぐ」(「日経」14日付)と明言しています。10月に始まったエネ基本計画見直しの経産省の会議の議論では、原発新増設を求める意見まで出されています。「地球環境のために脱炭素を」と言いながら、危険な原発に頼ることなどあってはなりません。「原発ゼロ」へ道を開くことが求められます。