2020年11月7日(土)
種苗法「改正」の問題点
田村貴昭議員に聞く
政府・与党は今の臨時国会で、前の通常国会で継続審議とされた種苗法「改正」案を成立させようとしています。法「改正」について、日本共産党の田村貴昭衆院議員・農林水産部会長に聞きました。(聞き手・北川俊文)
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農家の自家増殖を原則禁止
―種苗法とはどんな法律で、「改正」案はどんな内容ですか?
種苗法は、米や野菜などの新品種を開発して登録した場合、開発者の知的財産権を保護する法律です。種苗法では、育成者権といい、生産・販売する権利が与えられます。
同時に種苗法は、農家が購入した種や苗を育て、収穫して翌年、再び自分の農地で種苗として使うことは認めています。これを、自家増殖といいます。
「改正」案では、登録品種については自家増殖を原則禁止とし、登録期間の25年または30年の間は、許諾料を払わなければならなくなります。
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流出防止はごまかし
農家からは、「自家増殖が禁止になって、種苗を毎年買うことになったら、もう営農はできない」という声が上がっています。
―「改正」は、優良品種の違法な海外流出を防ぐためだといいますが?
海外流出の防止を理由にするのはごまかしです。「改正」案でも、違法な海外流出を防げません。流出した種苗の生産をやめさせるには、海外で品種登録するしかありません。
シャインマスカットが中国や韓国で「無断」栽培されていると伝えられていますね。それは、開発者である日本の政府がそれぞれの国で品種登録をしなかったからです。政府の怠慢を棚に上げて、自家増殖を原則禁止とするのは、お門違いです。
―農林水産省は、自家増殖が禁止されるのは登録品種で、一般品種は対象外であり、大半の農業者に影響しないといいますが?
正確に影響把握せず
実は、農水省は、生産者がどれだけ影響を受けるのか、正確に把握していません。
例えば、農水省は、稲作で登録品種は17%しかないといいます。しかし、実際はもっと多いのです。最も作付面積の大きい「コシヒカリ」は、育成者権がない一般品種だとされます。ところが、「コシヒカリ」には「コシヒカリ新潟BL」などの登録品種も含まれます。それを登録品種に加えると、17%より多くなります。
また、特産物に力を入れている地域ほど登録品種が多く、影響が大きくなります。例えば、ブドウでは、農水省は、登録品種は9%ほどだといいますが、山形県では、大粒種だと56%に上ります。北海道の小麦は99%、大豆は86%が登録品種です。沖縄県のサトウキビは半数以上が登録品種です。
―どのぐらいの数の農家が自家増殖をしていますか?
2015年の農水省の実態調査では、聞き取りを行った1000戸余りの農家のうち、登録品種を使って自家増殖する農家は全体の約5割にのぼります。これらの農家は、「改正」によって、新たな負担が増える可能性があります。
特に、有機農業や自然農法では自家増殖する農家の割合が高いはずです。正確に調査し、これらの農家の意見を聞くべきです。
企業参入の拡大狙う
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―農林水産省は、自家増殖の許諾料は高くないといいますが?
許諾料は、開発者しだいです。農水省は「高額にすれば買う農家が減るからそれほど高くならない」といいます。しかし、本当にそうでしょうか。
私は北海道で、病気を防ぐ青い蛍光色の薬剤が塗られたヒマワリの種を見ました。生産元をみると、シンジェンタ社という会社でした。同社は、種苗・農薬の販売で市場の寡占を進めるバイオ大企業です。同社の種を買うしか方法がなくなれば、価格はつり上がります。
実際、トウモロコシや野菜ではハイブリッド技術による一代雑種が席巻し、農家は毎年、農業関連企業(アグリビジネス)から種を買わなければならなくなりました。農家からは「負担が重い」という声も上がっています。
育成者の権利を強化
―自家増殖の禁止は、農家負担の増加のほかにどんな問題をもたらしますか。
農家から種の権利を奪い、農家を単なる種苗の消費者にしてしまうことです。
実は、作物が日本各地の風土に合った品種へ改良されながら、現代まで引き継がれてきたのは、農家の営みのおかげなのです。
だからこそ、国際条約でも、育成者の権利を守る一方で、農家の種の権利をはっきりと認めているのです。
国内法でも、現行の種苗法は、新品種を開発した人の権利と農家の種を採る権利のバランスをとっています。今回の「改正」案は、このバランスを崩し、農家の権利の犠牲のうえに、育成者の権利を一方的に強化する内容になっています。
種子法廃止と一体で
―「改正」のほんとうの狙い、背景にあるものはなんですか?
政府はなぜ、自家増殖の禁止にこだわるのでしょうか。それは、2018年の主要農作物種子法(種子法)の廃止とセットで考える必要があります。
安倍晋三前首相は、13年の施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すと宣言しました。その農業版が「攻めの農政」です。
「農業の企業化」を進めようというこの路線のもとで、安倍政権は17年4月、わずかな審議時間で種子法の廃止を強行しました。理由は、「国の研究機関や各県の農業試験場などの公的機関があると、民間の種苗会社が参入できないから」というものでした。
それと同時に、公的機関がもつ種苗生産の知見を民間に提供しなさいという「農業競争力強化支援法」が成立しました。
つまり、民間企業が種苗でもうけるには、農家に種を安く提供する公的機関がじゃまだったのです。その次にじゃまになるのは農家の自家増殖だというわけで、今回の「改正」を狙っています。
17年12月の知的財産戦略会議で、農水省ははっきりと「自家増殖が種苗開発への民間参入の障害になっている」と述べました。
つまり、自家増殖は原則禁止にして、登録品種の種子はすべて種苗会社から購入させる仕組みを整えることが今回の法「改正」の狙いです。
食の安全脅かされる
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多国籍企業の利益に
―種苗法「改正」で、誰が利益を得ますか?
世界的にみると、多国籍の農業関連企業(アグリビジネス)による種子の支配が広がり、バイエル(モンサント)、シンジェンタなど上位4社が種苗市場6割超を占有しています。これらは化学企業であり、遺伝子組み換えやゲノム編集による種苗販売とセットで、除草剤などの化学薬品・化学肥料を販売しています。
今回の種苗法「改正」は、これらの多国籍大企業の市場参入を見越しています。
これは、消費者にとっても大問題です。日本ではすでに、遺伝子組み換え作物の栽培は140件も認可され、3年後には「遺伝子組み換え作物でない」という表示ができなくなります。ゲノム編集は表示の義務もありません。食の安全が脅かされる可能性があります。
世界的には、規制が強められる傾向にありますが、日本ではどんどん緩められているため、遺伝子組み換えやゲノム編集種子企業に狙われています。これらの企業は以前から自家増殖の禁止を求めていました。種苗法「改正」はまさに、それに応えるものです。
つまり、種は農家、あるいは人類のものなのか、それとも化学企業のものなのか。それが問われていると、私は思います。
「種は百姓の魂。多品種の栽培は不作のリスクに備えるためだ」という農家の声に、耳を傾けるべきでしょう。
推進派を包囲しよう
―種苗の開発・普及はだれが担い、どうあるべきでしょうか?
近年、登録品種の出願数が減少しています。公的研究機関や大学の予算が減らされているからです。国は公的種苗事業に十分な予算を確保して、引き続き地域に合った安全で良質な品種を安く生産者に提供できるようにすべきです。
主要農作物種子法(種子法)の廃止は、国民的議論も行われないまま、わずかな審議時間で強行採決されました。それに対する驚きと怒りが広がり、全国の自治体で、公共の種子を守ろうという種子条例が制定される動きにつながりました。
国会でも2018年、野党が共同で種子法復活法案を提出し、与党もその審議に応じざるを得ませんでした。
今、種苗法「改正」に反対する市民の運動が全国で広がっています。反対の署名が続々と寄せられています。また、反対を表明するか、もしくは慎重審議を求める意見書は10月末時点で76自治体にのぼりました。
今、国会では、種苗法「改正」を推進しようとする自民党・公明党が多数を握っていますが、市民と野党の共同を広げれば、それをとめることも可能です。署名や地方議会からの意見書を集中し、ツイッターなどSNS(インターネット上の交流サービス)でも反対意見を拡散して、推進派を包囲していきましょう。
(5日、6日、7日付で連載)