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2020年11月24日(火)

主張

中小企業の「淘汰」

コロナ下で政府が進める異常

 コロナ危機で苦境に陥っている中小企業をどう淘汰(とうた)するか―菅義偉政権内でこんな異常な議論が行われています。政府の成長戦略会議には「日本の中小企業数は今の半分でいい」と公言する企業家デービッド・アトキンソン氏がメンバーに入りました。中小企業庁は中小企業の集約化について検討を始めました。中小企業は日本の企業数の99・7%を占め、従業員数は日本企業全体の68・8%と、文字通り地域経済と雇用の根幹です。中小企業なくして日本経済は成り立ちません。政府が今なすべきことは淘汰ではなく支援です。

「生産性低い」と退場迫る

 2020年の企業の廃業件数は過去最高となる恐れがあります。民間信用調査会社、東京商工リサーチによれば、コロナ感染が長引いた場合、廃業を検討する可能性がある中小企業は8・8%です。30万社超が廃業の危機にひんしていることになります。にもかかわらず、すでに政府の補正予算で決まった支援の多くが届いていません。持続化給付金も1回だけの支給にとどまっています。

 このさなかに菅首相は前政権の未来投資会議を引き継いだ成長戦略会議で「中小企業のM&A(合併・買収)」を議題に取り上げました。アトキンソン氏は、日本の中小企業は生産性が低く「コロナ前の現状維持は不可能」だとして成長する企業を中心に支援する政策に変えるよう求めました。宿泊業者には「84%の経営者は転換の意向がないということは大変問題だ」と廃業、転業を迫る冷酷さです。「中小企業半減」を持論とする同氏を会議の有識者メンバーに指名したところに菅政権の方向性があらわれています。

 「生産性が低い」とする中小企業に退場を求める主張は同氏だけのものではありません。安倍晋三前政権が決定した20年の成長戦略は、中小企業の廃業率が高いことを問題にしてきたこれまでの表現を削除し、淘汰を促す方向を示しました。中小企業庁が11日に「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」の第1回会合を開いたのも、低い生産性などの解消に向けて中小企業の統合、再編を推し進めるためです。

 ここで持ち出されているのは労働者1人当たりどれだけの付加価値を生み出したかを示す労働生産性です。もうけの大きい大企業は高く、大企業と比べて不利な中で営業している中小企業は低くなります。優遇税制など大企業に手厚く、中小企業に冷たい経済政策こそ改めなければなりません。

 労働生産性は労働者数を減らせば高くなります。生産性向上ばかり追求するのは“リストラの勧め”にほかなりません。

憲章と基本法を生かせ

 業者の運動が実り、10年に中小企業憲章が閣議決定され、14年には小規模企業振興基本法が施行されました。これを生かし、コロナ禍の中、雇用と地域を守って懸命に営業を続ける中小企業を経済の主役にふさわしく支援することが政府の役目です。

 淘汰を進めるなど憲章や同基本法に真っ向から反しています。中小企業家同友会全国協議会は菅政権発足にあたって「1社もつぶさない覚悟での強力な振興策」を求めました。中小企業は淘汰など望んでいません。菅首相は業者の声を無視すべきではありません。


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