2020年12月12日(土)
主張
パリ協定採択5年
立ち遅れ打開へ取り組み急げ
2015年12月12日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が採択されました。きょうはその日から5年です。しかし、パリ協定が目標に掲げる温室効果ガス削減に向けた各国政府の取り組みは遅れており、気候危機はさらに深刻さの度合いを増しています。もはや問題の先送りは許されません。地球の未来に破局的な事態を招かないために、今こそ各国政府は責任を果たす時です。国際水準より、大きく立ち遅れている日本政府の姿勢も問われます。
「実質ゼロ」に実効性を
パリ協定は国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、16年に発効しました。今世紀末の世界の平均気温上昇を、産業革命前と比べ2度より十分低く抑え、1・5度に抑制する努力目標を設定しました。今世紀後半に世界の温室効果ガスの排出量を、森林や海などの吸収分を考慮して実質ゼロにすることも決めました。極めて重要な協定です。
ところが、世界の到達点はそれに見合っていません。9日に国連環境計画(UNEP)が発表した年次報告書は、各国の排出削減目標が現状のままでは、今世紀中に気温上昇が3・2度になることを訴えました。今世紀半ばまでに「排出実質ゼロ」を約束・検討する国が126カ国に増加していることについては「重要で励まされる動き」とする一方で、50年と30年の目標には大きな開きがあり、50年の「実質ゼロ」目標を実現するには、30年の目標を引き上げる必要性を指摘しました。
菅義偉首相は先の臨時国会の所信表明演説で、50年までに「排出実質ゼロ」にすると表明しました。すでに120カ国以上が掲げている国際標準の目標をようやく打ち出したものです。しかし、30年の削減目標については言及していません。現在の日本の目標「30年度に13年度比で26%」は低すぎます。国際標準の1990年比に換算するとわずか18%削減です。30年目標の大幅引き上げを一刻も早く決断すべきです。欧州諸国は90年比50%以上削減をめざし、イギリス政府は4日、90年比で少なくとも68%削減を目標にすると表明しました。日本も少なくとも40~50%削減を目標にすべきです。
菅政権が、温室効果ガス排出量の多い石炭火力発電に固執していることも重大です。新規建設の中止や既存施設の計画的な中止・停止にも応じません。「高効率」施設については温存・推進の方針です。石炭火力発電の輸出についての公的支援の枠組みに「新基準」を設けましたが、抜け穴だらけです。脱炭素を加速させている国際潮流への逆行姿勢は許されません。
再エネの本格的導入こそ
再生可能エネルギーの本格的導入を正面に据える時です。18年に決定された政府のエネルギー基本計画で電源構成の22~24%にとどまっている再エネ比率の大幅引き上げが不可欠です。環境保全のルールづくりを行い、再エネが飛躍的に普及するための政策への転換をはかるべきです。「脱炭素」を口実に危険な原発に固執することは許されません。エネルギー政策を根本的に改めることが急務です。
パリ協定採択から5年を機に、未来を守ろうと若者を中心に世論と運動が日本でも世界でも広がっています。「時間はない」。この声を真剣に受け止めるべきです。