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2021年3月10日(水)

主張

空襲被害者の救済

尊厳回復へ時間残されてない

 一夜で約10万人の命が奪われた東京大空襲からきょうで76年です。アジア・太平洋戦争末期の1945年3月10日未明、約300機の米軍B29爆撃機が大量の焼夷(しょうい)弾を投下し、東京の下町一帯を火の海にしました。数日後、名古屋や大阪も大規模な空襲にさらされます。敗戦までに全国約400市町村が空襲や艦砲射撃を受けました。民間の被害者は国から謝罪も補償もなく実態調査も行われないまま置き去りにされてきました。被害者は高齢化し、残された時間は長くありません。被害者の尊厳回復を実現するため、国は一刻も早く救済措置を取るべきです。

受忍の押しつけは理不尽

 米国の日本への空襲は当時でも国際法違反の無差別爆撃でした。同時に、日本政府には戦時下に民間人の被害を拡大させた責任があります。政府は防空法制で「逃げるな、火を消せ」と民間人に命じ、戦争遂行のため、「空襲は怖くない、逃げる必要はない」と偽りの宣伝を繰り返しました。避難を許さなかった国の統制によって国民が危険な状態に置かれた事実は、司法も認めています(2011年の大阪地裁と13年同高裁判決)。

 政府は元軍人・軍属に恩給・年金などで補償を続けています。ところが民間の空襲被害者には「国との雇用関係がない」「戦争被害は等しく受忍すべきだ」と救済を拒んでいます。一方で、決して十分とは言えませんが、原爆被害者や民間人を含む引き揚げ者などへ救済の対象を一定程度拡大してきました。戦争被害を「等しく受忍せよ」という理屈で、民間の空襲被害者を差別し、補償から外し続ける理不尽さは明らかです。

 被害者らが国に「人間回復」を求めた東京大空襲訴訟で、東京地裁は国が主張した受忍論を採用せず、「国会がさまざまな政治的配慮に基づき、立法を通じて解決すべき問題」と判決で示しました(09年)。大阪地裁と同高裁、東京地裁はいずれも原告への賠償を認めない判決でしたが、被害者に手を差し伸べない政府の姿勢は正当化できません。国は司法による事実認定を重く受けとめ、立法によって救済に道を開くべきです。

 国が始めた戦争で、無数の国民の命が奪われ、生活が破壊されました。多数の人が心身に深い傷を負いました。戦災孤児となった人は亡き親の年齢をはるかに超えたいまもなお、両親のぬくもりを突然断ち切られた悲しみと苦しみを抱え続けています。言葉にできない悲惨な人生を強いられた人たちが無数にいます。日本政府はこれ以上、被害者の悲痛な叫びに背を向けることは許されません。

再び戦争を起こさせない

 超党派による国会の空襲議員連盟がまとめた民間空襲被害者等救済法案の要綱は、▽空襲や沖縄戦などで心身に障害を負った生存者に一時金を支給▽被害の実態調査▽追悼施設の設置―を盛り込んでいます。戦後75年の昨年、議員立法を目指しましたが、国会提出には至りませんでした。全野党が法案に賛成し、あとは自民・公明両党が同意するのみです。

 死者も含めたすべての空襲被害者の尊厳回復と「再び戦争を起こすことのない国」を次の世代に手渡したい―。高齢の体をおして声を上げ、必死に行動する被害者の思いに政府・与党はこたえなければなりません。


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